コラム

Google+はフェースブックより「まともな」SNS

2011年06月30日(木)15時23分

 グーグルが新しいSNS(ソーシャルネットワーク・サービス)を発表した。

 その名は「Google+ (グーグル・プラス)」。現在はまだ一般公開前のフィールド・テスト段階で、つまり限られたユーザーにしかオープンにされていない。私は、知り合いからインビテーションをもらい、早速あれこれ試してみた。

 大いに感心したことが、まずふたつある。

 ひとつは、デザインがわかりやすいことだ。それもそのはず。アップルの元祖マッキントッシュ・コンピュータの開発メンバーで、今はグーグルに在籍するアンディ・ハーツフェルドがデザインしたとのことで、アップルのインターフェイスのように使いやすい。見た目もすっきりときれいだし、使い勝手もいいというのは、エンジニアっぽさが目立ついつものグーグルのサービスとは、ちょっと違った感じである。

 もうひとつ感心したのは、SNSをやっと「まともな」ところへ持ち上げてくれたことだ。それは「サークル」という機能のおかげである。

 サークルは、グーグル・プラスの最大の特徴と言ってもいいが、これはSNSでつながりたい人々を、たとえば「友人」「知人」「家族」「仕事仲間」「遊び仲間」といったような分類に分ける機能である。

 分ける操作も簡単で、ドラッグ&ドロップ、つまりその人の写真を選んでそのサークルへ移動させるだけで完了する。また、サークルの呼び名は何でもよくて、好きな名前をつければいいし、自分でどんどん細分化して数を増やすこともできる。サークルの名前や誰がどこに入っているかは、自分にだけしかわからない。

 さて、このサークルは、われわれの正直な世界観にとても合致してはいないだろうか。

 たとえばフェイスブックでは、「みんなが友達」で、「情報はみんなと共有する」のが当然とされている。もちろん機能上は、友達をグループに分けたり、プライバシー設定で誰に何を公開するかを選べたりするのだが、その方法があまりにややこしくて、たいていのユーザーは友達をまとめてひとつの容れ物に入れたままにしているはずだ。

 そのおかげで、何をやっても何を言っても、友達どころか、広い世界に向かって発表しているような堅苦しさがつきまとっていた。それがグーグル・プラスでは、サークルによって共有したいことを分けることができる。サークルごとに、親密さやオフィシャル度を使い分けることが可能になる。

 また、そもそも「友達」という脅迫感から開放されるのが嬉しい。知っている人はいろいろいるけれど、その中には親しい関係の人、それほどでもない人などがいるだろう。そういう人たちを、友達か、そうでないかで分けるのではなく、各々それなりのサークルに大切に納まってもらえるのだ。

 無理強いも妥協もないので、このサークルは使い物になる。たとえば、グーグル・プラスの機能には、「ハングアウト(仲間とビデオチャットできるよう、ライブ状態にしておくこと)」や「ハドル(複数の仲間とテキストメッセージングし合えること)」などがあるが、それを特定のサークルの中だけで機能させることができるのだ。このグーグル・プラスの中だけで、かなりの交友関係の操作が可能になるだろう。

 グーグルは、以前にもBuzz(バズ)というSNSを発表したことがある。だが、この時はあまりにたくさんのことを自動化しようとしたために、ユーザーのコントロールの利かないままに、メール上でやりとりしている相手がSNS上に露出してしまうなどのプライバシー問題を引き起こした。今回は、ひとつひとつユーザーがていねいに操作、設定することができるようになっているのは、かなり大きな進歩だ。

 もちろん、このグーグル・プラスも完璧なSNSの姿ではないだろう。未来のSNS は、信頼感や尊敬心といったものを育むべきだとも言われる。だが、グーグル・プラスが人間関係の微妙なニュアンスをちゃんと拾い上げたところは、大いに評価できると思うのだ。

プロフィール

瀧口範子

フリーランスの編集者・ジャーナリスト。シリコンバレー在住。テクノロジー、ビジネス、政治、文化、社会一般に関する記事を新聞、雑誌に幅広く寄稿する。著書に『なぜシリコンバレーではゴミを分別しないのか? 世界一IQが高い町の「壁なし」思考習慣』、『行動主義: レム・コールハース ドキュメント』『にほんの建築家: 伊東豊雄観察記』、訳書に『ソフトウェアの達人たち: 認知科学からのアプローチ(テリー・ウィノグラード編著)』などがある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

独失業者数、11月は前月比1000人増 予想下回る

ワールド

プーチン氏、来月4─5日にインド訪問へ モディ首相

ワールド

ウクライナ反汚職当局、大統領府長官の関係先捜索

ワールド

香港火災の死者128人に、約200人が依然不明 報
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 7
    「攻めの一着すぎ?」 国歌パフォーマンスの「強めコ…
  • 8
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 3
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 4
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 5
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 6
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 7
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 10
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story