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コラム
瀧口範子@シリコンバレーJournal
災害時の人命救助でIT技術にできなかったこと
「V&TCs」ということばが何を意味するか、ご存知だろうか。
これはvolunteer and technical communitiesの略である。とくに被災地で活動するボランティアと技術コミュニティーの意味で『Disaster Relief 2.0(災害救済2.0)』という報告書の中で使われている。この報告書は、災害時に今後テクノロジーがどう使われるべきかを詳細にわたって考察する重要なものだ。V&TCsという用語も、これまでバラバラだった人々の努力をひとつのものとして提示するという点で、画期的だと思う。
同報告書は、2010年1月に起こったハイチ大地震の救援活動の際に、多数のボランティアと技術の専門家、ことにインターネットやコンピュータ技術を得意とするテクノロジー関係者が多く関わったが、もしさまざまな情報がもっと効率的にまとめ上げられていたら、その効果はより大きかったはずだという反省から作成された。
報告書を書いたのは、国際連合財団と通信会社ボーダフォンの財団、国連人道問題調整部(OCHA)、そしてハーバード大学の人道イニシアティブである。
大災害が起こると、ボランティアの人々が「何かできないものか」と現地へ向かう。最近は、コンピュータに長けたプログラマーやデベロッパーの人々も、インターネットやSNSを利用して「何かできるはずだ」と動き始める。東日本大震災でも同じだった。
ハイチ大地震では、彼らの活動がうまく噛み合っていなかったこと、どうにか情報を集めても、それが実際に前線で活動する救助隊に効果的に伝わらなかったこと、SNS的なサイトを立ち上げても情報が混み合うだけで、そこから重要なものを拾い出すのに多くの手間がかかってしまったことなど、反省が尽きないという。報告書では、そうした問題点を洗い出し、より効果的な技術の使い方と人々の活動や情報がうまく連携する方法を考察している。
ハイチでは地震直後も携帯電話は通じたし、ラジオも聞けるという幸運な状態だった。それでも、情報の収集には涙ぐましい努力を要した。現地で孤立してしまった被災者がフェイスブックやツイッターで助けを求めても、バラバラに散らばったサイトからそれを拾い出す必要がある。
アメリカのテクノロジー関係者が、アメリカ在住のハイチ出身者たちに連絡を取って、そうしたSOSを抽出し、どこで何人の被災者が助けを待っているかを地図上に視覚的にマッシュアップ(情報源が異なるデータをひとつのものに統合すること)した。クレオール語やフランス語で送られたメッセージを訳す必要もあった。
インターネットやテクノロジーの時代とは言え、今はまだ、こうした手作業をシラミつぶしにやっていかねばならない。東日本大震災の際にも、コツコツと一人で情報をアグリゲートしていた人が何人もいたと伝えられる。
理想的には、携帯電話の位置情報と共に、助けを求めるメッセージが「自動的に」ひとつの地図上にアップロードされ、それが救助の最前線にリアルタイム伝わるといったことがあればいい。既にそのための技術の要素はそろっているが、まだ統合ができていない状態だ。
東日本大震災の時も、情報を「拡散してください」というツイッターがたくさん見られたのだが、拡散してつぶやきがやたらに増えるよりは、重要な情報だけが選抜され、救助隊に自動的に流れ込む仕掛けがあった方がいいはずだ。
だがそれ以前の問題もある。この報告書では、国連などの組織内での情報テクノロジー理解度が、外部世界ほど進んでいないことや、組織のシステムが閉じられていて、そこに外部の情報がつながらないことが障害となっていると述べている。これは日本の行政組織を考えても同じだろう。
日本でも、東日本大震災の教訓を将来に活かすために、このように詳細にわたる考察をするのはとても重要なことだと思う。
ところで東日本大震災に際しては、シリコンバレーでもいろいろな動きがあった。カーネギーメロン大学シリコンバレー校には、災害管理イニシアティブというセンターがあるが、ここでは3月11日の地震直後にある教室に集まり、そこから災害ウィキという共同災害情報アグリゲートサイトへの協力を始めた。今は、技術研究で強いカーネギーメロン大学のリソースで救済に役立つものが何かを探索しているという。ベンチャーキャピタリストたちも、SNSを駆使して2000万人以上にリーチし、寄付金サイトで30万ドル以上の救済募金を集めている。
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