コラム

携帯電話を持つと紛争に肩入れする?

2010年07月29日(木)15時31分

 あなたが持っている携帯電話は、もしかすると、アフリカの内戦が終わらないひとつの理由になっているのかも知れない...。

 こんなことに気づかせてくれるのが、本誌日本版7月28日号の『その高機能携帯の陰の「虐殺」』というタイトルの記事です。

 どういうことなのか。携帯電話やパソコンには、タンタルやタングステンなどレアメタル(希少金属)が使われています。滅多にないから「レアもの」と呼ばれるだけあって、こうした鉱物は、高値で取引されます。

 こうした鉱物の主なものは、アフリカが産地です。この産地を武装勢力が押さえれば、貴重な資金源になるのは明らか。この資金で武器を買い、兵を養い、いつまでも戦い続けられます。

 あなたの携帯電話に使われているレアメタルが、そんな所から来ているのだったら...と考えると、美しい携帯のフォルムが、妖しく映ります。

 これを防ぐ手立ては、ないのか。この記事は、こう問題を提起します。

 そこで参考になるのが、「紛争ダイヤモンド」に関する取り組みです。これは、アフリカの紛争国で採掘されたダイヤモンドのことです。

 武装勢力がダイヤモンド鉱山を押さえ、密輸出することで資金を得られるため、いつまでも紛争・内戦が終わらない状態が、シエラレオネなどで続いていました。「ブラッド・ダイヤモンド」(血塗られたダイヤ)と呼ばれることもありました。

 こうした紛争地のダイヤ取引を禁止することで、武装勢力の資金源を断つ。これが、「キンバリー・プロセス認証制度」です。

 2000年5月に南アフリカのキンバリーで開かれた国際会議で実現に向けて動き出したので、この名前があります。公式に封印されたダイヤモンドのみを取引することで、紛争ダイヤを正規の市場から締め出すことに成功しました。

 さて、この方式を、レアメタルにも応用できるものなのか。その点で注目されるのが、米上院が7月に可決した「金融規制改革法」です。アメリカの金融機関の行き過ぎた活動を規制する法律だとばかり思っていたら、本誌の記事によれば、ここに「コンゴ周辺の紛争鉱物を規制する条項が盛り込まれている」のだそうです。

 日本の電機メーカーが、この動きに腰を上げることがあるのか。
 
 日本の雑誌ではお目にかかれそうもない、こうした記事が読めるのも、本誌ならではのことかも...。

プロフィール

池上彰

ジャーナリスト、東京工業大学リベラルアーツセンター教授。1950年長野県松本市生まれ。慶應義塾大学卒業後、NHKに入局。32年間、報道記者として活躍する。94年から11年間放送された『週刊こどもニュース』のお父さん役で人気に。『14歳からの世界金融危機。』(マガジンハウス)、『そうだったのか!現代史』(集英社)など著書多数。

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