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コラム
池上彰Newsweek斜め読み
中国にはなぜ理系指導者が多いのか
建国60周年を迎えた中国。本誌10月7日号も中国を特集しましたが、いささか首を傾げるトーンの記事も散見されました。
特集の最初の記事は、「一党独裁を脅かす権力闘争が始まった」というタイトル。これには興味を惹かれますね。「一党独裁を脅かす」とは、どんな事態が進行しているのか。思わず読みふけったのですが...。
要は、「人民派」と「エリート派」という2つの勢力が、ほぼ拮抗した力を持ち、胡錦濤国家主席の後継の座を争っている、というものでした。
まあ、そうなんでしょう。中国共産党は、建党初期から、決して一枚岩ではありませんでした。毛沢東だって、長征の過程での党内闘争に勝ち抜いて権力を握りました。でも、党内での派閥争いが、どうして「一党独裁を脅かす」ことになり、「中国に多党制や民主主義をもたらすかもしれない」と言えるのでしょうか。
本文の冒頭には、「共産党の一党独裁が次の60周年を迎えられる可能性はますます小さくなっているらしい」とありますが、その根拠が希薄です。胡主席が、「共産党と競合しない範囲で存在を認められている8つの小政党のメンバーと話し合いをした」のだって、以前からよくあること。8つの小政党が存在するからといって、これらの「政党」は、「中国共産党の指導を受ける」ことになっています。民主主義国の常識に照らせば、これは独立した「政党」とは呼べないものです。「中国に多党制」がもたらされるものではありません。
次にひっかかったのが、「さらば理系指導者の時代」という記事です。「毛沢東後の中国共産党指導部は、圧倒的に理系出身者が多かった」が、「時代は変わり始めた。国家の統治には幅広いスキルが必要だという認識が広まるにつれ、党指導部では法学など『ソフトサイエンス』を学んだ若いエリート層が急速に台頭している」というものです。
目のつけどころは面白いですね。でも、胡錦濤国家主席や温家宝首相など理系指導者がどうして多かったのか、この記事ではわかりません。
実はこれ、文化大革命のせいなのです。胡主席や温首相の学生時代、文化大革命の嵐が吹き荒れました。このとき文科系学生の多くが、紅衛兵として「革命」の真っ只中に突入し、内ゲバで死傷したり、反革命として処刑されたりしたのです。
学内の嵐に無関心だった理系の学生だけが、嵐を生き延びることができました。胡主席や温首相の世代は、他に優秀な人材が残っていなかったため、結果として理系指導者が台頭したという背景があります。
革命の嵐が過ぎ去って平穏な社会になれば、政治や経済、法律に関心のある文系の人材が台頭するのは、世の習いです。
こういう歴史を知ってか知らずか、記事はいささか内容の薄いものになってしまいました。
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