コラム

【ウェブ対談:池田信夫×冷泉彰彦】慰安婦問題の本質とは何か<2>

2015年02月23日(月)10時17分

≪対談<1>はこちら≫

編集部(朝日新聞の誤報で日本の対外イメージが傷つけられたという論調が世論の大勢ですが。)

冷泉 (国外では)誰もそんなこと言っていないですよ。そんなこと、ないんじゃないですか。例えば日本車が売れなくなったとか、日本のサブカルチャーが人気なくなったとか、まったくないですよ。アメリカ人には、戦前の日本と戦後の日本は別だってわかっていますから。

池田 そこはまったく同意見で、日本人の名誉とか日本の戦争犯罪の責任の取り方とか、全然関係ないところで盛り上がってしまった。2000年代に入ってニューヨーク・タイムズなどに飛び火しますが、そこではもう完全に違う問題、女性の人権問題になっています。それは悪いに決まっていますから、話に収拾がつかないですよね。

picture2.jpg

「今の政権のイメージ戦略は間違っている」と語る池田信夫氏。(c)Ouichirou Hamada/CCC Media House

編集部(アメリカで慰安婦の銅像が建てられていることを憂慮する声もありますが。)

冷泉 いや在米の日本人は全然気にしていないですよ。90年代以降の新しい移民の中には、気にしたり、本国の保守的なネット論壇に同調する人もいますが、80年代、またはそれ以前に渡米した日系人はまったく気にしていません。旧日本軍と自分たちはまったく別のアイデンティティーだと考えているから。

 あまりにエスカレートして、あることないこと言われるようなら、それは正した方がいいかもしれませんが、基本的に今の日本が否定されてもいないし、戦後の日本が否定されてもいない。在米日本人の子どもたちの人権がおびやかされるようなことはありません。

池田 しかしニューヨーク・タイムズのようなメディアは、「セックス・スレイブ(性奴隷)」という言葉を社説で使って非難してくる。これは厄介ですよ。そう言われたら日本人は、頭にくる。そういう誤解がさらに誤解を生んで、誤解した人同士が喧嘩している状態ですよね。

 冷泉さんの言うことは正しくて、戦前のことは21世紀の日本人とは関係ありませんと割り切ってしまえばいいんですよ。でもなかなかそうはならない。やっぱり戦前の日本について、事実ではないことを言われれば、「名誉を汚された」という感情を持ってしまいます。これはある意味やむを得ない。

プロフィール

池田信夫

経済学者。1953年、京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。93年に退職後、国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は株式会社アゴラ研究所所長。学術博士(慶應義塾大学)。著書に『アベノミクスの幻想』、『「空気」の構造』、共著に『なぜ世界は不況に陥ったのか』など。池田信夫blogのほか、言論サイトアゴラを主宰。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英1月財政収支、154億ポンドの黒字 予想下回り財

ビジネス

ユーロ圏総合PMI、2月50.2で変わらず 需要低

ワールド

焦点:低迷するドイツ、総選挙で「債務ブレーキ」に転

ワールド

英国、次期駐中国大使に元首相首席秘書官が内定 父は
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 9
    ハマス奇襲以来でイスラエルの最も悲痛な日── 拉致さ…
  • 10
    ロシアは既に窮地にある...西側がなぜか「見て見ぬふ…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 8
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 9
    週に75分の「早歩き」で寿命は2年延びる...スーパー…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 6
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 7
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story