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コラム
池田信夫エコノMIX異論正論
暴走する大阪維新の会は自滅の道を歩むのか
このところ、いろいろな週刊誌などに「橋下徹首相」という特集が出る。私にもその取材が来たが、記者は「政治ネタには読者が反応しないのだが、大阪維新の会だけは別だ」といっていた。私も橋下氏が旧来のイデオロギーにこだわらないで「負の所得税」などの思い切った政策を提唱していることは評価してきたが、このところ暴走が目立つ。
一つは、大阪維新の会の市議団が5月議会に提出しようとした「家庭教育支援条例案」だ。これは「発達障害の原因は親の愛情の不足だ」という怪しげな説にもとづいて「1日保育士」の体験を義務づけるものだ。この条例案は橋下市長が「差別を助長する」として市議団に見直しを要請して撤回されたが、維新の会のガバナンスの弱さと知的水準の低さを印象づけた。
もう一つは関西電力大飯原発3・4号機の再稼働をめぐって、関電に対して不可解な要求を出して混乱を助長していることだ。大阪府市統合本部が「原発再稼働の条件」として出したのは、「原発から100キロ圏内の住民の同意を得て府県と原発の協定を締結する」とか「使用済み核燃料の最終処理体制確立」など8つの条件である。
大飯原発から「100キロ圏内」といえば、福井県だけではなく、京都府・大阪府・兵庫県・滋賀県・鳥取県・岐阜県まで含む。これだけ広範な府県・市町村すべての同意がないと原発を運転できないとすれば、全国の原発が運転できなくなるだろう。最終処理体制も同じで、当面の再稼働とは何の関係もない。要するに、ハードルを無限に上げてすべての原発を止めようとしているのだ。
こうした活動の中心になっているのは、大阪府市の特別顧問である古賀茂明氏(元経産省)だ。彼はきのうワイドショーで「関電は『停電テロ』を仕掛けようとしている」と述べ、これに対して関電は次のような異例の「お知らせ」を出した。
古賀茂明氏の「火力発電所でわざと事故を起こす、あるいは事故が起きたときにしばらく動かさないようにして、電力が大幅に足りないという状況を作り出してパニックをおこすことにより、原子力を再稼動させるしかないという、いわば停電テロという状態にもっていこうとしているとしか思えない」というインタビューが紹介されましたが、当社として、そのような事を検討している事実は一切ありません。
関電の全発電量の48%をまかなう原発がすべて止まったままで、真夏のピークを迎えるのは危機的な状況だ。関電は老朽化した火力発電所を稼働してぎりぎりの運転を続けており、大阪府市が危機を乗り超えるために協力しなければならないパートナーである。それをテロリスト呼ばわりするのは、危機管理を放棄したと受け取られてもしかたがない。
古賀氏とともに大阪府市の特別顧問をつとめる飯田哲也氏は、福島第一原発事故の前から「すべての原発を廃止して再生可能エネルギーで100%まかなう」という計画を宣伝していた。彼にとっては今回の事故は原発を廃止に追い込む千載一遇のチャンスなのだろう。そういう政治的な目的のために、彼が危機を拡大するのは合理的な戦術である。
しかし橋下氏が考えている「決められない政治」を克服するという目標にとっては、こうした混乱は有害無益だ。原子力をどうするかというのは、国政の中では経済政策の一つであるエネルギー戦略の中の枝葉の問題にすぎない。そもそも大阪府も市も関電に対して何の許認可権ももっていないのだから、外野から要求を突きつけること自体がナンセンスだ。
このようにいろいろな関係者が口を出して意思決定が複雑化したことが、政治が決められなくなった原因である。野田首相は無意味に時間をかけて「地元の理解」を求めようとしているが、発電所の運転を許可するのは経産相の専権事項であり、地元の同意は必要ない。こうした「過剰なコンセンサス」を断ち切らない限り、日本の政治は立ち直れない。
そういう外野の雑音に耳を貸さないで法にもとづいて決める合理主義が橋下氏が支持を集めた原因だが、今は維新の会が最大の雑音を作り出している。こういう無責任な行動を続ける限り、彼らが国政に進出するのは無理だろう。このままブレーンの暴走を放置していると、そのうち自滅する。橋下氏は初心に返って大阪の改革に専念し、国政の問題は政府にまかせるべきだ。
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