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コラム
池田信夫エコノMIX異論正論
政策仕分けは増税のための見世物なのか
古代ローマでは、皇帝が人々の不満を抑えるためにパンを支給し、それが行き渡ると競技場で決闘などの見世物を開催したという。ローマの詩人、ユウェナリスはこう書いた。
かつては政治と軍事の全てにおいて権威の源泉だった民衆は、
今では一心不乱に、もっぱら二つのものだけを熱心に求めるようになっている
すなわちパンと見世物を・・・
民主党政権の行政改革の目玉だった「提言型政策仕分け」の目的も歳出削減ではなく、無駄づかいしている官僚をたたく見世物を提供することだったのだろうか。
11月21日に行なわれた仕分けでは、民主党の仙谷由人政調会長代行が登場し、懸案になっていた周波数オークションについて「時間がない」と実施を渋る総務省を「時間がないなどというのは理由にならない。オークションについては民主党も10年前から言っており、国会にそのむね説明すれば夏まで待たなくてもいい」と一喝した。
「影の総理」ともいわれる仙谷氏が語気を強めてオークションの早期導入を求め、総務省は何も反論できなかったことで、勝負はあったと思われた。ところが今日になって川端達夫総務相は、国会で「関係業界も割り当てに向けた準備を進めている。総務省としては、既定方針どおり粛々と手続きを進めたい」と答弁し、焦点となっている900MHz帯のオークションを行なわない方針を明らかにした。
先週の仕分けのあと、総務省と関係業界の動きは急だった。桜井俊総合通信基盤局長みずから与野党を回って反対運動を展開し、ソフトバンクの孫正義社長は総務省に乗り込んで反対の陳情を行ない、松崎公昭副大臣は「孫社長と認識は一致した」と答えた。陳情に対して、政務三役がその場でOKを出すのは異例である。この面会は総務省がお膳立てしたものだろう。行政刷新会議で決めたことを総務相と副大臣が公然とくつがえすのは、閣内不一致である。いったい民主党政権の命令系統はどうなっているのか。
来年2月に電波を割り当てられるのはソフトバンクモバイルに内定しており、同社はすでにそれを当てにして1兆円以上の先行投資を行なっている。免許がおりる前から免許を前提に設備投資をするのは、「公正な審査」などという総務省の建て前が空文化していることを示している。「関係業界も割り当てに向けた準備を進めている」という川端総務相の発言は、官民談合を認めるものだ。野党時代に民主党がオークションの実施を求める電波法改正案を出したとき、その提案者だった川端氏は何を考えているのだろうか。
「時間がない」などというのは、へたな言い逃れだ。来年割り当てても、すぐ使えるのは上り3MHzと下り5MHzだけで、残りは2015年あるいは2018年にならないと使えない。オークションをするための電波法改正は「電波は競売で割り当てる」という1項目を付け加えるだけなので、仙谷氏もいうように次の通常国会で成立させることができる。ソフトバンクがどうしてもほしいなら、堂々とオークションに参加して落札すればいいのだ。
財政危機が深刻化する中で、オークションで見込まれる1兆円以上の国庫収入は貴重な財源である。総務省はそれを安値でソフトバンクに割り当て、その資金を「移動無線センター」に提供しようとしている。この団体はMCA無線という業務用無線を運営しているが、仙谷氏も追及したように、その理事6人のうち3人の常勤理事は(理事長を含めて)すべて総務省の天下りだ。総務省がオークションを拒否するのは、競売収入は一般会計に入り、天下り団体に渡すことができないからなのだ。
政策仕分けが、コロシアムの決闘よろしく仙谷氏が官僚をどやしつけ、「こんなに無駄の削減に努力してるんだから消費税を上げてくれ」と言うための見世物だったとすれば、納税者をバカにした話である。パンと見世物で買収されたローマの民衆は政治への関心を失い、自分で国を守る気概をなくしてローマは衰退に向かった。日本もその後を追うのだろうか。
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