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コラム
池田信夫エコノMIX異論正論
もし日本でギリシャのような財政破綻が起きたら
欧州の債務危機は、ギリシャの国民投票という予想外の展開で、きわめて深刻になってきた。誰もが連想するのは、ギリシャよりはるかに大きな政府債務を抱える日本は大丈夫なのか、ということだろう。
もし将来、日本の財政が破綻したら何が起こるか、という想定で、私のメールマガジンで「もし小泉進次郎がフリードマンの『資本主義と自由』を読んだら」という未来小説を連載したところ、複数の版元から「出版したい」というリクエストをいただいた。これは冗談なので小説にはならないとお断りしたが、漫画化したいという話があったので、今月末に日経BP社から長編コミックとして出版する。
ギリシャはこの小説に書いたような展開になってリアリティが出てきたが、日本との違いも多い。まずギリシャのGDP(国内総生産)は日本の1/20程度で、大した産業がなく、社会主義政権で放漫財政が続いてきた。またユーロという共通通貨があるため、インフレはあまり激化しないが、他方でインフレで債務を帳消しにすることができない。
もしギリシャが国民投票でユーロからの離脱を決めたら、ドラクマ(元のギリシャ通貨)の価値は暴落して実質的にデフォルトが起こり、ギリシャ国債を保有している多くの金融機関が破綻するだろう。これがEU(欧州連合)の恐れているシナリオだ。
日本はギリシャとは違って資金過剰なので、今のところ国債の価格は安定している。また国債の保有者の90%以上が国内居住者なので、ギリシャのように海外の債権者が国債を売って価格が暴落するといった事態は、今のところ考えにくい。しかしあと5年ぐらいで日本の個人金融資産は国債に食いつぶされ、外債を募集しなければならない。その前後から長期金利が上がる(国債価格が下がる)おそれが強い。
長期金利が上がると、国債を大量に保有している金融機関が含み損を抱える。日本銀行の調べによると、長期金利が1%ポイント上がると、銀行の保有している国債の評価損は9兆円にのぼる。これは邦銀の2010年度の業務純益3倍を超え、自己資本に対する金利リスク(1%ポイント)の比率が30%を超えているので、金利が3%以上あがると債務超過になる。しかも大手行の金利リスクが4兆円なのに対して、地域銀行(地銀・第二地銀)のリスクは5兆円を超える。
もちろんギリシャのように長期金利が20%を超えることは考えにくいが、国内金融機関の国債保有額は350兆円を超えるので、金利が上昇し始めると政府や日銀が止めることはむずかしい。彼らが横並びで逃げ始めると日銀が買うしかないが、これによって通貨が市場に供給されてインフレが起こり、それによって金利が上昇する・・・という悪循環が始まる。このインフレを適度な水準で止めることはできない。日銀が国債を買うのをやめたらデフォルトが起こってしまうからだ。
もう一つの違いは、日本の税率が低く、特に消費税を上げる余地が大きいことだ。しかし消費税率を25%に上げたとしても、2020年にギリシャ並みの債務水準にもならない。消費税だけで財政を再建するには、30%以上にしなければならないが、5%の消費税を10%に上げるのに15年以上かかっている政府にそれが可能だろうか。
こう考えると、究極の問題は政府の統治能力であることがわかる。政府が増税と歳出削減を行なう意志が明確で、それを実現できる勢力が議会の多数を占めていれば、債務が大きくても財政は維持できる。逆にギリシャのように政府債務の絶対額が小さくても政府に財政再建の意志がないと、市場のアタックを受けやすい。
残念ながら、この点で日本政府の質はギリシャと大して変わらない。特に民主党政権は政府債務の最大の原因である社会保障にまったく手をつけないどころか、「社会保障と税の一体改革」と称して消費税と抱き合わせで歳出を増やすありさまだ。自民党は消費税の増税を掲げているが、政権を取ったら本当にできるかどうかはあやしいし、10%に上げた程度では焼け石に水だ。
総合すると、日本でギリシャのように極端な財政破綻が起こることは考えにくいが、金利上昇によって欧州のような金融危機に陥るおそれは強い。1990年代の不良債権問題のときは、実質的に破綻した銀行に公的資金を注入して救済したが、今度はその政府が破綻するので問題は深刻だ。向こう5年ぐらいを考えると、恐れるべきなのは円高ではなく(インフレによる)円の暴落だろう。
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