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コラム
池田信夫エコノMIX異論正論
電力を有効利用するスマートメーターに「ガラパゴス化」の危機
電力消費は毎日、綱渡りが続いている。18日午後2~3時の東京電力管内の電力消費量は今年最高の4936万kWになり、電力使用率も90.4%に達した。15%節電で今年は何とか乗り切れそうだが、こういうことが続くと日本経済はもたない。特に定期検査を終えた原発が再稼働できなかったのは菅首相の場当たり的な行動が原因で、政治が正常化することが第一条件だ。
しかし電力不足に対して一律に節電を求めるのはおかしい。これは電気事業法27条にもとづく「電力使用制限令」で、石油危機のように燃料が不足した場合を想定したものだ。今回のように発電所が稼働できないときは、電力消費全体を抑制する必要はなく、夏場のピークだけ消費量を下げればよい。
平均電力/ピーク電力の率を負荷率と呼び、最近は60%前後で推移している。つまり発電能力の4割は、真夏以外は余っているのだ。逆にいうと、ピーク時の電力消費を平均に近づければ、今のような節電は必要なくなる。その方法も、経済学的には簡単である。ピーク時の電気料金を引き上げればいいのだ。
こうしたピークロード料金は、通信では導入されている。たとえばNTTの電話料金は、昼間は3分8.5円だが、深夜は4分8.5円だ。電力でも、たとえば8月の平日の昼間の料金を2倍にする、といった料金体系を導入すれば、電力消費は大きく減るだろう。これは一律の節電と違って、工場などの必要不可欠な電力は通常どおり使うことができ、不要な冷房を消費者の判断で消すことができる。
しかしこうした制度を導入するには、技術的な問題がある。企業など大口需要家の電力計は時間帯ごとの使用量が記録できるが、家庭にある普通の電力計は1ヶ月の電力消費量を積算するだけなので、いつ使ったかがわからないのだ。これを記録するためには、時間別に課金する機能をそなえた電力計が必要になる。
今でも深夜電力の契約をしている家庭では、時間別の課金ができるようになっている。さらに高度化して、自由に時間帯や料金を変更し、自動検針することも技術的には可能だ。これをスマートメーターと呼ぶ。といってもむずかしい技術ではなく、電力計の情報をデジタル化して無線ネットワークでサーバに送信するだけだ。
実はスマートメーターは、すでに電力各社がもっており、いつでも配備できる。彼らは本音では電力をたくさん使ってほしいので、ほとんど宣伝していなかったのだが、今回の事故で各社とも量産体制に入った。政府はスマートメーターを今後5年間で4000万台導入する計画を発表し、専用に980MHz帯の周波数を割り当てた。
ところが、電力業界の関係者は「今のままではスマートメーターも『ガラパゴス化』する」と心配する。電力10社は、電力計を独自仕様でバラバラに設計してきた。これを実際に納入しているのは、電力計5社(大崎電気工業、東光東芝メーターシステムズ、三菱電機、GE富士電機、エネゲート)で、官庁などに出入りするITゼネコンとよく似た「電力ゼネコン」構造だ。
現に東電と関西電力のスマートメーターはまったく別の規格で、互換性はない。さらに問題なのは、今後、電力が自由化されて小口電力(50kW以下)にも競争を導入したとき、独立系の発電会社(PPS)が別個にスマートメーターを設置しなければならないことだ。現在PPSは大口需要家には電力会社とは別の電力計を置いているが、これを各家庭に置くのは無理だし、社会的にも非効率だ。
電力を有効利用する技術としては、電力が不足しそうなとき消費量を減らす「デマンドレスポンス」など、さまざまな方法がある。このような技術で電力を取引するには、電力会社の送電網を使わなければならないが、東電は福島第一原発事故のあと、送電網を使った電力卸売市場を閉鎖した(6月に再開)。
このように電力会社が送電網を独占していると新しい技術も使えないので、発電と送電を分離し、小口も含めてすべての電力を自由化する必要がある。しかし今のガラパゴス化したスマートメーターが配備されると、配電網の地域独占が既成事実になり、自由化は困難になる。政府はスマートメーターを標準化し、発電会社ごとの消費量がわかる仕様にすることを電力会社に求めるべきだ。
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