コラム

予算編成にみる「短期決戦」症候群

2009年12月24日(木)11時52分

 来年度予算の骨格がやっと決まった。例年なら20日に財務省原案が出て、復活折衝が行なわれて30日に政府原案が出るが、今年は「政治主導」でやるため財務省原案なしで、政府原案を出すことになった。おかげで税収の柱が20日を過ぎても決まらず、予算編成が越年するのではないかと財務省主計局は危惧していた。土壇場になって暫定税率を残して子ども手当の所得制限をやめるなどの骨格がやっと決まったが、概算要求で95兆円にふくらんだ予算を圧縮する目途は立たない。

 補正予算の記事でも指摘したことだが、民主党の予算編成は自民党以上に場当たり的で整合性がない。初心者だからしかたがないという面もあるが、藤井財務相は大蔵省OBなのだから、もう少し計画的に仕事ができないものか。このように目先の辻褄合わせを繰り返しているうちに長期的には破滅的な結果をまねく「短期決戦」志向は、90年代の不良債権処理でもみられた。こうした体質は昔からで、太平洋戦争の作戦を分析した『失敗の本質』(中公文庫)は、次のように書いている。


短期決戦志向の戦略は、一面で攻撃重視、決戦重視の考え方とむすびついているが、他方で防御、情報、諜報に対する関心の低さ、兵力補充、補給・兵站の軽視となって表れるのである。


「決戦」をバラマキ福祉、「補給」を財政資金と置き換えると、この指摘はそのまま民主党に当てはまるだろう。選挙めあてで目先の金をばらまき、長期的な財政破綻という結果を考えない。この原因は、かつての日本軍がそうだったように、長期戦になると負けることを覚悟しているからだろう。

 歳出は95兆円なのに、税収が36兆円とその4割もない予算は、先進国に例をみない異常なものである。今は不況で資金需要がないため、金利は1.2%台ですんでいるが、財政赤字がふくらみ続けると、そのうち金利上昇によって財政赤字が雪ダルマ式にふくれ上がるだろう。それなのに鳩山内閣は、自民党でさえ示したプライマリーバランス(基礎的財政収支)を黒字化する目標も放棄してしまった。

 このような戦略なき戦力の逐次投入を続けていると、前の戦争のような破局を迎えることは避けられない。日本の政治家としては類まれな戦略家である小沢一郎氏も、当面は来年の参院選に戦略目標を絞っているようだ。しかし有権者は、バラマキの原資が自分たちの払う税金であることぐらい知っている。国民をバカにした「朝三暮四」の財政運営は、そのうち取り返しのつかない結果をまねくだろう。

プロフィール

池田信夫

経済学者。1953年、京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。93年に退職後、国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は株式会社アゴラ研究所所長。学術博士(慶應義塾大学)。著書に『アベノミクスの幻想』、『「空気」の構造』、共著に『なぜ世界は不況に陥ったのか』など。池田信夫blogのほか、言論サイトアゴラを主宰。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米建設支出、5月は‐0.3% 一戸建て住宅低調で減

ビジネス

ECB追加利下げに時間的猶予、7月据え置き「妥当」

ワールド

米上院、トランプ減税・歳出法案を可決 下院で再採決

ビジネス

米ISM製造業景気指数、6月は49.0 関税背景に
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 3
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。2位は「身を乗り出す」。では、1位は?
  • 4
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    世紀の派手婚も、ベゾスにとっては普通の家庭がスニ…
  • 7
    あり?なし? 夫の目の前で共演者と...スカーレット…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    未来の戦争に「アイアンマン」が参戦?両手から気流…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story