コラム

OECDも批判した民主党政権のバラマキ少子化対策

2009年11月19日(木)13時01分

 今月18日、OECD(経済協力開発機構)のアンヘル・グリア事務総長が都内で講演し、「日本の政策目的を支援する」と題する提言を発表した。これは民主党政権が成立して以来、OECDが日本政府に行なった初めての提言である。これまでもOECDは毎年、自民党政権に「対日審査報告」を出してきたが、政策にはほとんど反映されなかった。民主党政権は、このアドバイスをどう聞くのだろうか。

 グリア氏は、まず次のように日本の問題を定義する:


世界は、活力あるダイナミックな日本を求めている。日本が経済的な健康を取り戻すことは、日本人だけでなく世界にとって重要だ。しかし日本は急速な少子化という危機に直面している。今世紀なかばまでに日本の人口は9500万人に減り、その40%が65歳以上になる。年金や医療の負担が日本経済の最大の重しとなろう。


 日本の巨額の財政政策は政府債務を膨張させ、2011年までにGDP(国内総生産)の2倍を超えると予想される。これを克服するために必要なのは、成長率を引き上げることだ。幸い日本の初等中等教育は成功しており、15歳児の学力はOECD諸国で最高である。研究開発投資もGDPの3.4%と欧米より高く、その2/3が民間投資だ。

 しかし問題は、こうした投資の成果が十分出ていないことだ。特に人的資源の非効率性が目立つ。成長率を上げるためには、労働人口を増やす政策と労働生産性を高める政策が必要だが、総人口が減っても労働人口を増やすことは可能だ。


日本で目立つのは、女性の学歴が高いのに就業率が低いことだ。この傾向には最近も変わらず、しかも女性の賃金は大卒と高卒でほとんど変わらない。要するに、日本は高等教育を受けた女性の才能を浪費しているのだ。この原因は、長期雇用・年功序列の賃金体系によって、結婚退職した女性はパートタイマーにしかなれないことだ。非正社員の2/3が女性である。


 特にグリア氏が強調したのは、民主党の「子ども手当」がこうした問題の対策になっていないことだ。日本の親は10歳の子供には多くの教育費を使うが、5歳児に使う金はOECD諸国で最低レベルだ。これは専業主婦が子供を育てているためだが、この状況を変えるために必要なのは、バラマキ型の子ども手当ではなく、女性の社会参加を促進する政策だ。女性の就業率と出生率には正の相関がある。子供を安心して預けられる保育所を増やすことが少子化を防ぐ重要な対策だ、とグリア氏は提言した。

 鈴木亘氏や大竹文雄氏など日本の経済学者も「保育バウチャー」のような制度で80万人以上ともいわれる待機児童を解消すべきだと提案している。私も、同様の政策を「アゴラ」で提言した。必要なのは子だくさんの親に無目的に金をばらまくことではなく、女性の社会参加を進めるという政策目標を明確にした戦略にもとづいて政策を立てることである。

プロフィール

池田信夫

経済学者。1953年、京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。93年に退職後、国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は株式会社アゴラ研究所所長。学術博士(慶應義塾大学)。著書に『アベノミクスの幻想』、『「空気」の構造』、共著に『なぜ世界は不況に陥ったのか』など。池田信夫blogのほか、言論サイトアゴラを主宰。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上

ワールド

ガザ支援搬入認めるようイスラエル首相に要請=トラン
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story