コラム

G8サミットへの中国のメッセージ

2009年07月09日(木)14時35分

 今週、イタリアのラクイラという町で開催されているサミット(先進国首脳会議)は、もしかすると最後のG8サミットになるのではないか、と思うぐらい盛り上がらない。そもそも会場をベルルスコーニ首相の国内政策の都合で直前に変更するというのが、サミットが軽くなったことを示している。警備はおろか宿泊施設もろくにない田舎町で、世界経済の動向が決められるのか。

 そういう中身のなさを見抜いたのか、中国の胡錦濤国家主席は「新疆ウイグル自治区の混乱」を理由にして途中で帰国してしまった。中国はG8の正式メンバーではないが、保護貿易の阻止や温室効果ガスなどの問題の主役であり、中国なしでは重要事項はほとんど決められない。逆にいうと、この状況がG8サミットの重みをよく示している。ここに集まる「先進国」はもはや発展の終わった「昨日の世界」の国々であり、「明日の世界」の動向を決めるのは中国を先頭とする新興国なのだ。

 サミットは、もともと1975年に石油危機に対応するために主要国が集まって経済政策を協議したもので、激しいインフレや失業に対応する緊急会合という性格が強かった。それが定例化されるうちに「ネタ」がなくなり、為替相場の調整などは蔵相・中央銀行総裁会合で行なわれるようになったため、形骸化した。1990年代以降は、ロシアや新興国が枠外で参加するようになり、ますます性格が曖昧になった。

 特にひどかったのは、昨年7月に開かれた洞爺湖サミットだ。世界的な金融危機の最中だというのに、金融は議題にもならず、地球温暖化について「目標の再確認」を行なっただけ。最近では、重要な経済問題については新興国をまじえたG20でタイムリーに討議されるし、本当に緊急の事態ならホットラインで協議できる。儀礼化したG8サミットは、もうやめてはどうか――胡主席の中途帰国にはそういうメッセージが隠されているのではないか。

プロフィール

池田信夫

経済学者。1953年、京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。93年に退職後、国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は株式会社アゴラ研究所所長。学術博士(慶應義塾大学)。著書に『アベノミクスの幻想』、『「空気」の構造』、共著に『なぜ世界は不況に陥ったのか』など。池田信夫blogのほか、言論サイトアゴラを主宰。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

英・EU、ロシアに停戦圧力 「影の船団」標的に追加

ワールド

ローマ教皇、ウクライナ和平交渉主催の用意 イタリア

ワールド

イスラエルがイラン核施設の攻撃準備、米が情報入手=

ワールド

「米国は世界から手を引かない」、ルビオ国務長官が上
MAGAZINE
特集:関税の歴史学
特集:関税の歴史学
2025年5月27日号(5/20発売)

アメリカ史が語る「関税と恐慌」の連鎖反応。歴史の教訓にトランプと世界が学ぶとき

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    コストコが「あの商品」に販売制限...消費者が殺到した理由とは?
  • 3
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界の生産量の70%以上を占める国はどこ?
  • 4
    【クイズ】世界で1番「太陽光発電」を導入している国…
  • 5
    「空腹」こそが「未来の医療」になる時代へ...「ファ…
  • 6
    【裏切りの結婚式前夜】ハワイにひとりで飛んだ花嫁.…
  • 7
    中ロが触手を伸ばす米領アリューシャン列島で「次の…
  • 8
    人間に近い汎用人工知能(AGI)で中国は米国を既に抜…
  • 9
    小売最大手ウォルマートの「関税値上げ」表明にトラ…
  • 10
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    ワニの囲いに侵入した男性...「猛攻」を受け「絶叫」する映像が拡散
  • 4
    中ロが触手を伸ばす米領アリューシャン列島で「次の…
  • 5
    コストコが「あの商品」に販売制限...消費者が殺到し…
  • 6
    【クイズ】世界で1番「太陽光発電」を導入している国…
  • 7
    「運動音痴の夫」を笑う面白動画のはずが...映像内に…
  • 8
    ヤクザ専門ライターが50代でピアノを始めた結果...習…
  • 9
    トランプ「薬価引き下げ」大統領令でも、なぜか製薬…
  • 10
    サメによる「攻撃」増加の原因は「インフルエンサー…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山…
  • 5
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 6
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 7
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 8
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 9
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 10
    ワニの囲いに侵入した男性...「猛攻」を受け「絶叫」…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story