今週から、週1回コラムを書くことになった。かつてミルトン・フリードマンも書いたNewsweekのコラムを(日本ローカルとはいえ)書くのは名誉だが、送られてきた先週号を読んで、ちょっと憂鬱になった。「キーパーソンで読み解く世界情勢入門」と題して挙げられた世界の50人のリーダーの中に、日本人が1人もいないのだ。アジアではビルマやアフガニスタンからも代表が出ているのに、世界第二の経済大国から誰も出ていないのは、日本の置かれた現状を象徴している。
おまけにリチャード・サミュエルズ(MIT教授)が「リーダーが消えた国ニッポン」を論じている。日本は世界を指導する「経済大国」というプライドを捨てて「ミドル・パワー」になったほうがいい、という彼のアドバイスは当たっていると思う。その最大の原因は、彼も指摘する政治的リーダーシップの不在だ。昨今の不況をめぐる政府の場当たり的な対応をみていると、これが日本の不況が欧米よりひどくなった元凶だと実感する。
日本経済を唯一ひっぱってきた輸出産業が壊滅し、このままでは少子化とあいまって、ゼロ成長に近い「長期停滞」が続く可能性が強い。もう一度、活力を取り戻すには、戦後ずっと続いてきた産業構造を変えなければならない。特にG7諸国で最低になった労働生産性を上げるには、「縦割り社会を人が横に動く」ための制度改革が必要だ。しかし政府がやっているのは、逆に派遣労働の規制強化など、人を動きにくくする政策ばかり。これでは、ただでさえ老化して柔軟性を失った日本社会が、ますます硬直化するばかりだ。
かつて日本に傑出したリーダーがいたのは、目標がはっきりしていたからだ。人々は貧しくて失うものはなく、欧米諸国のように豊かになるという手本もあった。必要なのは、国民をその方向でまとめる指導力だけだった。しかし経済大国になり、豊かになるという目的を達成した日本は、次の目的を見失ってしまった。人々は失うべき既得権をもち、それを奪う改革には強く反対する。かつての政治は大きくなるパイを分配する仕事だったが、これからの政治は縮んでゆく経済の中で犠牲を払わせる仕事だ。
こうしたむずかしい経済の舵取りが、リーダー不在の政治にできるとは思えない。それより実力に合わせてミドル・パワーになって国際的な負担を減らし、グローバル経済のプレイヤーになることもあきらめ、中国やインドと競合しないサービス業でやっていく「引きこもり」が賢明な戦略かもしれない。