コラム

生成AIの進化を受けて人型ロボット市場が立ち上がり始めた

2024年04月01日(月)17時30分
(写真はイメージです) VesnaArt-Shutterstock

(写真はイメージです) VesnaArt-Shutterstock

<ロボット市場に詳しい専門家によると「人型ロボットのベンチャーが米国と中国に多く誕生してきている」という>

*エクサウィザーズ AI新聞から転載

「2023年まで人型ロボットの市場が立ち上がるのにあち10年はかかると思われていた。ところが2024年になりアメリカのテレビの人気ニュース番組でも人型ロボットを取り上げるようになった」。ロボット市場に詳しい専門家として多くの企業のアドバイザーを務めるScott Walter博士は、YouTube上のインタビューでそう語っている。なぜ大手メディアが人型ロボットを取り上げるようになったのか。生成AIの進化を受けて、人型ロボットが急速に進化し始めたからだ。

元ベンチャーキャピタリストで、テスラ社の動向に詳しいインフルエンサーの一人Herbert Ong氏は、同じインタビューの中で「今年に入って、ほぼ毎日のように人型ロボットに関する大きなニュースが続いている」と指摘している。

例えばシリコンバレーの人型ロボットベンチャーのFigure社は、1月18日にBMWとの提携を発表した。BMWは今年1年かけて人型ロボットの活用方法を検討したあとに、サウスキャロライナ州の工場に実際に導入する計画。その後は、AI、ロボット制御、デジタルツイン、ロボットインテグレーションなどの分野でFigure社と共同研究を行うという。

果たして人型ロボットがどの程度の成果を上げるのか。世界の製造業に関係する企業がこの提携の結果に注目していると言われている。

またFigure社は2月に6億7500万ドルという巨額の資金調達に成功している。出資したのは、Microsoft、OpenAI、NVIDIA、Amazon、Amazonの創業者Jeff Bezos氏、著名ベンチャーキャピタルのParkway Venture Capital、Intel、韓国LG、Samsungなど。それぞれの業界のトッププレーヤーが顔を揃えている。

3月15には、米テキサス州の人型ロボットベンチャーApptronikが、メルセデスベンツ社の工場への人型ロボットの導入計画で合意に達したと発表した。

このほかにも中国上海のUnitree Roboticsのロボットが3月に秒速3mでの歩行に成功、Boston Roboticsの記録を破った。カナダのロボティックスベンチャーSanctuary.aiがブロック分別タスクで人間並みの速度を達成したと発表している。

なぜ人型ロボットがここにきて急速に進化し始めたのか。生成AIが文字情報だけでなく映像、音声などマルチなモード(データの種類)に対応できるようになり、そうしたマルチモーダルな生成AIを搭載することでロボットの性能が急速に向上し始めたからだ。

Scott Walter博士は「去年まではロボットに搭載するAIの進化が必要だと考えていた。しかし生成AIが急速に進化した。AIのほうがロボットのハードより先行している。今はAIに合わせたハードの進化が待たれるぐらいだ」と語っている。

Ong氏によると、人型ロボットは今年から来年にかけて工場や倉庫などへの導入が始まり、その後の成果を見て製造業に一気に普及する見通しだと言う。その結果、価格が低下し性能が向上、数年後には店舗や家庭向けのロボットも普及し始めるだろうとしている。

投資家のCern Basher氏がまとめた下の表によると、人型ロボットのベンチャーは、米国と中国に多く誕生してきており、日本と韓国ではまだその動きが見られないという。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

イタリア鉱工業生産、5月は前月比0.7%減に反転 

ワールド

親パレスチナ活動の学生、移民当局の拘束巡り米政権に

ワールド

トランプ氏、アフリカ5カ国に強制送還移民受け入れを

ワールド

トランプ氏、大統領権限でウクライナに武器供与する意
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 3
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 6
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 7
    アメリカの保守派はどうして温暖化理論を信じないの…
  • 8
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 9
    犯罪者に狙われる家の「共通点」とは? 広域強盗事…
  • 10
    ハメネイの側近がトランプ「暗殺」の脅迫?「別荘で…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story