オーストラリアの診察室から
12月17日以降の新しい日常
オーストラリア各地では新型コロナウイルスの件数も下がってきていて、州境の移動の規制も緩和されてきました。私が住むクイーンズランド州はニューサウスウェールズ州などと比べると他州や海外からの移動に対してまだ厳しいです。しかし12月17日よりクイーンズランド州の規制も大幅に緩和される予定です。これはワクチンを接種すべき人口の80%が2回接種を終えているというのが前提です。
12月17日以降も他の州から隔離なしでクイーンズランド州に入れる人は基本的にワクチンを2回接種した人のみのようです。引き続き新型コロナウイルスワクチンを接種していない人はホテルでの隔離が必要です。ワクチン接種を完了した人に対しての規制は様々な場面で緩みます。例えば、レストラン、ホテルなどホスピタリティサービスはワクチンを2回接種している人を対象とした場合の人数制限がなくなります。また野外スポーツイベント、コンサート、室内の音楽イベント、ミュージアムなどもワクチンを2回接種している人たちへの人数規制がなくなります。
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その反面、ワクチンを2回接種していない場合は行動が大きく制限されます。例えば、ワクチン2回接種完了していない場合、レストランやカフェなどに入ることは一切できません。スポーツや音楽のイベントにも参加できません。病院はワクチンを2回接種していなくても患者としてはいけますが、お見舞いや付き添いとしてはいけなくなります。
あらゆるお店や施設などが12月17日以降の対応に追われていますが、これは医療施設も同じです。現在の予想だと一度州境が開けば、クイーンズランド州でも新型コロナウイルスの市中感染が増えると予想されています。オーストラリア政府は軽度の新型コロナウイルス感染はGP(家庭医)が見ていくべきだとしています。政府の見立てでも、市中感染はある程度普通になり病院だけでのケアは病院に負担がかかり過ぎと考えられています。オーストラリア政府は新型コロナウイルスの患者をGPのクリニックで見る場合、通常の診療報酬に追加で25ドル上乗せするとしています。しかしこれには多くのGP、GPの学会やオーストラリアの医師会から反発を受けています。GPは個人営業主という雇用扱いのため、病院で働く医療関係者と比べると政府からの支援が少ない傾向があります。防護服なども基本的にはクリニックが個人で購入しています。病院で働いてる場合はマスクを着用した際に空気の漏れがないかのフィットテストを無料でできますが、GPの場合自己負担となります。また規制が緩和されてもクリニックで新型コロナウイルスの患者を診察した場合、医療関係者が新型コロナウイルスに感染したり、クリニックを閉じないといけない可能性もあります。このようないろいろなリスクを考慮した場合、新型コロナウイルス患者をクリニックでみるのはたとえ25ドルの上乗せ報酬でも厳しいものがあります。以前以上の防護施設の充実や感染者とそうでない患者を診療するエリアを設ける必要があります。しかし、多くのクリニックは構造上エリアを分けるのは難しいことが多いのが実状です。新型コロナウイルスの患者を拒否するも難しいですが、それ以外の患者への配慮も必要で多くのクリニックは頭を悩ましてします。政府も反発を受けて方針を変えるかもしれませんが12月17日以降どうなるか誰にも未知の部分があります。
画像: Lincoln Beddoe
新たな新型コロナウイルスのオミクロン株の感染がニューサウスウェールズで発見されましたが、これを受け、クイーンズランド州政府は今のところ規制緩和を12月17日に行うか検討しているようです。
参考
https://www.covid19.qld.gov.au/__data/assets/pdf_file/0021/220377/DPC7976-Vaccine-status-plan.pdf?nocache-v2
https://www.qld.gov.au/health/conditions/health-alerts/coronavirus-covid-19/current-status/queensland-restrictions-80-percent-vaccination
https://www.abc.net.au/news/2021-11-17/gps-push-back-against-seeing-covid-patients-face-to-face/100627040
著者プロフィール
- 高尾康端
日本、スイス、シンガポール、アメリカで育ち、2004年からオーストラリアに移住。シドニー大学医学部を卒業。現在は東ブリスベンエリアHawthorne Clinicにて家庭医 (GP)として勤務。家庭医の観点からみる病気についての情報、また母国である日本と移住地オーストラリアの医療システムの違いや、オーストラリアで病気になった時に役立つ情報を発信している。
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