オーストラリアの診察室から
迷走するオーストラリアの新型コロナワクチンプログラム
オーストラリアの新型コロナワクチンプログラムは今までに約700万本のワクチン接種を終えました。現在設定されている目標の約半分ほどです。新型コロナワクチンを一回接種した人の数はオーストラリアの人口の約20%で、2回接種した人は人口の約4%にすぎません。
オーストラリアの新型コロナワクチンプログラムは様々な理由で遅れています。オーストラリアはアメリカやイギリスなどに比べると新型コロナウイルスの市中感染がとても少ないため、急いでワクチンの接種を行う必要がない雰囲気がありました。
また、オーストラリア政府のワクチン接種の方針がよく変わるのも、遅れている理由の一つかもしれません。オーストラリア政府は当初アストラゼネカ製のワクチンを主に使用する計画でした。しかし数か月前からいろいろな国で、アストラゼネカ製のワクチンの非常にまれな副作用の一つとして、血栓の報告がありました。オーストラリアでもこの問題が起き、アストラゼネカ製のワクチンに関連した血栓による死者もでました。アストラゼネカ製のワクチンに関連して血栓ができる人の数が増えたことにより、イギリスやカナダなどが、アストラゼネカ製ワクチンの年齢制限を設けはじめました。オーストラリアも国内で死者がでたことを受け、アストラゼネカ製のワクチンは50歳以上にのみ勧めるとしました。オーストラリア政府は今年の後半にはファイザー製のワクチンをもっと入荷する予定ではありますが、まだ不確定なので50歳以上の人はアストラゼネカ製のワクチンを受けるように勧めました。オーストラリア政府の説明としては、50歳以上の人が新型コロナウイルスの感染によって死亡する可能性や後遺症が残る可能性のほうが、血栓ができる可能性よりはるかに高いため、ワクチン接種のメリットの方が高いということでした。
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画像:Yulia Sutyagina-ISTOCKS
参考
https://www.health.gov.au/initiatives-and-programs/covid-19-vaccines/getting-vaccinated-for-covid-19#australias-vaccine-rollout
https://www.theguardian.com/australia-news/ng-interactive/2021/jun/24/covid-19-vaccine-rollout-australia-coronavirus-vaccination-progress-updates-tracker-victoria-nsw-queensland-qld-daily-live-data-stats-updates-total-numbers-distribution-schedule-tracking-new-cases-today
https://www.theaustralian.com.au/commentary/coronavirus-australia-is-the-vaccine-rollout-designed-to-be-slow-and-ineffective/news-story/ed6bfef5685dad7c760010dafd3f581d
https://www.abc.net.au/news/2021-06-10/woman-dies-rare-blood-clots-astrazeneca-covid-vaccine/100205652
https://www.abc.net.au/news/2021-06-29/coronavirus-vaccine-under-40s-can-request-astrazeneca/100251000
著者プロフィール
- 高尾康端
日本、スイス、シンガポール、アメリカで育ち、2004年からオーストラリアに移住。シドニー大学医学部を卒業。現在は東ブリスベンエリアHawthorne Clinicにて家庭医 (GP)として勤務。家庭医の観点からみる病気についての情報、また母国である日本と移住地オーストラリアの医療システムの違いや、オーストラリアで病気になった時に役立つ情報を発信している。
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