パリのカフェのテラスから〜 フランスって、ホントはこんなところです
ウクライナ問題におけるロシアとフランスの関係
ウクライナのNATO(北大西洋条約機構)加盟を巡るアメリカ・ヨーロッパを巻き込んでの問題が緊迫の様相は依然として、解決策を見出せないまま緊張状態が続いています。フランスでは、どうやら第5波の峠は超えたとみられているコロナ関連のニュースに取って代わって、大統領選を間近に控え、ともすると、選挙一色になりつつある報道の中でも、このウクライナ問題は、毎日のように報道されています。
ロシアがウクライナ近辺の軍備を増強し、軍事演習などを始めたことから、もしもロシアがウクライナに対しての攻撃を起こした場合には、アメリカをはじめとするヨーロッパ諸国がロシアに対して制裁措置を用意していることが発表されて以来、俄かに戦争が起こるのではないかとの懸念が生じ始めました。
アメリカが・・ということは、日本も無視はできないだろうとは思っていましたが、それが、いつの間にか、「欧米諸国」という表現から、「G7」が対応・・となったことで、「えっ!G7って日本も・・」とあらためてギョッとしました。
マクロン大統領とプーチン大統領の会談
フランスに関係する国で、何か起これば、すぐにアクションを起こし、フットワークの軽いマクロン大統領は、諸外国の中でまず先んじて、プーチン大統領との会談のためにクレムリンに出向きました。以前にレバノンのベイルートの湾岸倉庫で起こった大きな爆発事故をきっかけとした、一部の政治的な特権階級が支配する金融危機の状態への反発からの大混乱の際にも、事故から48時間以内に自らレバノンへ出向き、現地を視察し、現地の人々の話やレバノン国民の生の声を聞き、「フランスは、決してレバノンを見捨てることはありません。」そして、破壊された首都の通りで遭遇した苦痛の中でレバノン人からの助けの要請に応えて、「政治階級の悪しき習慣を変えるよう奨励する」ことを述べ、「新しい政治協定」の確立を確実にすることを宣言し、当時のレバノン政府の首脳との会談に臨んだりしたこともありました。
こんな具合にマクロン大統領の動向を見ていると、国内外を問わずに昨日、あそこにいたと思ったら、今日はもうここ?とびっくりするほど神出鬼没?で、今回のウクライナ問題に対しても、ドイツのメルケル首相の引退後にフランスがEUの議長国に就任したこともあり、まるで救世主のように、「いくつもの解決案を提案するつもりである。戦争に発展するのは、いかにしても回避する!」と意気揚々とクレムリンへ出発したのでした。
しかし、マクロン大統領を待ち受けていたのは、この写真にあるような、とんでもない距離のソーシャルディスタンスをおいた会談で、後にこのとんでもない距離は、マクロン大統領がロシア政府がDNAを採取することを恐れてPCR検査を断ったためにロシア側がとったソーシャルディスタンスであったと説明がなされていましたが、単なる感染対策ならば、いくらでも工夫のしようはあったであろうに、この会談の「ソーシャルディスタンス」こそが、まさにロシアとフランスの社会的な距離の象徴であったような気がしています。
顔を突き合わせて、喧々囂々と議論をするフランス人にとって、口が達者で論破が得意なマクロン大統領も、これには、ペースを崩されたであろうことは、言うまでもありません。マクロン大統領を迎えるにあたって、このソーシャルディスタンスは、言わばロシア側の戦略の一つでもあったに違いありません。議論を戦わせることによって解決策を見出していく(解決しないことも多々あるけれど・・)フランス人に比べて、自分の考えをハッキリと述べないプーチン大統領のような姿勢は、ことさら議論しづらい相手であることに違いなく、マクロン大統領の思惑をよそに、粘りに粘った5時間近くにもわたるこの会談でも、結局のところ、ハッキリとした結論は見出せず、マクロン大統領は、会談後に「具体的な解決策を提案し、状況の悪化やエスカレートがないことを確認した」と述べたものの、「プーチン大統領は自分の曖昧さの一つ一つを利用している」と語り、明快な解決策を見出すことを避けているというロシア側の姿勢がこの会談で変わることはありませんでした。
歴史を引きずるロシアとフランス・ヨーロッパの関係
恥ずかしながら、正直、私は、これまでロシアとウクライナという国の区別もあまり、つかないほど、ロシアとウクライナを同じような目で見ていました。パリに来てからは、職場には、常に、少数ではありましたが、ロシア人の同僚がおり、今まで日本では接したことがなかったロシア人の知り合いもできました。また、ロシア人観光客を見かけることも多く、比較的、大人しくて、従順な感じのするところは、日本人と似たところがあるな・・などという印象も持つようになりましたが、同時に、おとなしそうでいて、激しいものを秘めているという印象もあります。
ここへ来て、俄かに「本物の戦争が起こるかもしれない・・」という不安を抱いてから初めて、私は、ロシアの歴史をざっと見直したりもしました。高校生の頃に世界史の授業で学んだはずのことでしたが、それは、単なる試験のための一夜漬けであったために、ほとんど記憶に残っていなかったのです。
こうして、ロシアの歴史を振り返ってみると、ロシアは、過去の戦争から、さんざんな目に遭ってきて、そのトラウマのようなものが現在の状況に影響しているような気がしてきました。フランスとロシアの悲惨な過去の中には、1812年にナポレオンがロシアに侵攻し、モスクワを陥落したという戦争がありましたが、ロシアでは、この戦争を「祖国戦争」と呼ばれる「国を守った聖戦」として記憶しており、今でもロシアの歴史の教科書に載せられているそうです。この内容をフランスで教育を受けてきた娘に話すと、「フランスの歴史の授業では、この戦争は大して大きく取り上げられていない・・」とのこと。まさに被害者側は、いつまでもその被害を忘れない・・そんな構図なのかもしれません。
ちなみに、娘に「フランスでも、学校では「世界史」の授業と「フランス史」の授業があるの?」と聞いてみたら、逆に、「日本の学校は、歴史を日本だけの歴史と世界史と分ているの? 外国との関わりなしに、歴史はありえないでしょ?さすが日本・・」とちょっと呆れられて、あらためて、日本の過去の歴史と現在に至る外国との距離の取り方への考え方が特異なものであることを思い知らされたりもしたのです。
話は逸れましたが、ロシアは、フランスとの「祖国戦争」の後には、さらに大きな被害を被ったドイツとの戦争から第2次世界大戦(ロシアでは「大祖国戦争」と呼んでいるらしい)へと悲惨な戦争を繰り返し、大きな痛手を追った上に、その後は、ロシア国内での内戦が起こり、ロシア革命へと繋がって、多くの犠牲者を出しているのですが、その歴史を振り返ると、ロシアに対して、制裁を加えると息巻いているのがアメリカやドイツであることなどの因果を感じずにはいられません。
現在のフランスの姿勢を見る限り、交戦的で、ともするとロシアを煽っているのではないかと思われるようなアメリカや、それにヨーロッパの中でも先頭を切って、それに追随しようとしているドイツと比べて、フランスはヨーロッパの一国として、それに同意してはいるものの、そこまで過激な姿勢は感じられません。ウクライナ情勢の緊迫化に直面し、多くの欧州諸国が自国民に対して国外退去を要請している中、現在のところ、フランスは、当分の間、ウクライナへの渡航を控えるよう勧告するだけにとどまっています。
その後、ロシアは、ドイツの首相とも会談を行い(マクロン大統領と同じようなソーシャルディスタンスだった)、アメリカとも会談を続けていますが、状況はあまり変わらず、ロシアはウクライナ付近の特定の軍事演習を終了すると発表したにもかかわらず、アメリカは、ロシアは週末にウクライナ国境での軍事態勢をさらに強化していると主張し続けています。
このウクライナとロシアの現状についても、今ひとつ、明確なものがなく、多くの国の首脳が会談を続けるにもかかわらず、はっきりとした内容が伝わってこないのは、どうにも薄気味悪い不穏な状況です。
パンデミックによるウィルスとの戦争と本物の戦争
2020年3月のパンデミックによるロックダウンが宣言された時のマクロン大統領の演説は「我々は、戦争状態にある」という言葉で始まりました。私が子供の頃には、「戦争を知らない子供たち」「戦争を知らない世代」などと言われることがあり、その後は「平和ボケ」などと揶揄される時代もあったりして、私は、大人になりました。
コロナウィルスが発生して間もない頃は、ヨーロッパの被害は壊滅的に拡大し、まさかの完全ロックダウン。家からほとんど出ることができずに、外から聞こえてくる救急車のサイレンの鳴り止まぬ中、テレビから映し出される病院がみるみる埋まって、廊下に患者が並べられている様子や、終いには野戦病院のようなものまでが建てられる様子、マスクや呼吸器などの医療機器が不足して、輸入されるマスクがうやうやしく警察車両に先導されて運ばれる模様や呼吸器を動物病院から調達したりするような映像を家の中で見ながら、これが「戦争」というものなのだろうか?、人の一生のうちには、必ずこうした戦争のような危機に直面するようにできているのではないか?そんなことを考えたりもしました。
しかし、この時の敵は、目に見えないウィルスであり、人が人を殺そうとする戦争は、やっぱりこんな恐怖ではすまないだろうとも思ったりもしていたのです。
それが、パンデミックの終息はまだというのに、よもや、本物の戦争が起こるかもしれないという事態に、不安は募ります。ましてや海外生活を送っている中での戦争です。やはり、戦争が起こった場合に自国にいないということは、ことさら不安なものです。フランスは、移民である私のような外国人にも鷹揚な国で(今のところは・・)、選挙権こそないものの、あらゆる援助や保護などはフランス人と同様にしてくれますが、戦争となったら、まず第一に守るのは、フランス国民なのではないかとそんな不安も頭をよぎるのです。何も、フランスと日本の間に戦争が起ころうとしているわけではないので、そこまで不安に思うこともないとは思うのですが、本物の戦争を知らない私は、そして、海外で生活している身としては、ことさら、このニュースから目が離せないのです。
ウクライナ国民とフランス人
「こんなに世界中が騒いでいる中、ウクライナは意外にも楽観的に構えている」とフランスでは報道されています。それは、きっと、もし、フランスが現在のウクライナのような状況におかれたら、フランス国民は大パニックを起こし、国内でも大変な騒ぎになるに違いなく、一見、静かなウクライナ人の様子が理解できないからだと思います。国民性という言葉で片付けることはできませんが、淡々と生活するように見えながらも、ウクライナの一部では、応戦に備えて、一般市民(女性も含めて)が軍事演習を行ったりしている様子には、彼らの心の奥に潜む激しい思いを感じさせられます。
パンデミックも終わらないうちに、どの国も平和を叫びながらも、再び戦争が起ころうとしている状態に、人間の罪深さと歴史の傷跡の痛みを感じずにはいられないのです。現在、コロナウィルスの波は西ヨーロッパから東ヨーロッパへ移行し始めたと言われています。コロナウィルスの移動とともに危ぶまれるウクライナの戦争。のらりくらりと時間稼ぎとも思えるような各国首脳との対応を続けるプーチン大統領は、もしかしたら、ドンドンパチパチという攻撃ではない目に見えない攻撃をすでに開始しているのではないか?そんな疑いも抱いてしまいます。
いずれにせよ、コロナもようやくおさまりを見せ始め、今年こそは日本にも行けるかもしれないと思っていたのに、まさかの戦争とは・・思いもよらぬことが起こり続ける世の中、ただただ平和を祈るのみです。
著者プロフィール
- RIKAママ
フランスって、どうしようもない・・と、日々感じながら、どこかに魅力も感じつつ生活している日本人女性。日本で約10年、フランスで17年勤務の後、現在フリー。フランス人とのハーフの娘(1人)を持つママ。東京都出身。
ブログ:「海外で暮らしてみれば・・」
Twitter:@OoieR