パリのカフェのテラスから〜 フランスって、ホントはこんなところです
フランスにとっての東京オリンピック開催
フランスの世論調査によると、オリンピック開催直前まで、フランス人の58%は東京オリンピックは開催されるべきではないと回答していました。それが開催直前になって、無観客開催が決まり、あれよあれよという間に東京オリンピックは始まってしまいました。
多くの国家元首がオリンピックの開会式参加を辞退した中、G7の首脳の中でもただ一人だけ、フランスのマクロン大統領は、5月の段階で宣言していたとおり、東京オリンピック開会式のために訪日しました。マクロン大統領は、開会式直前のフランステレビジョンのインタビューに登場し、「世界中がパンデミックという危機に直面しているからこそ、パンデミックとオリンピックの精神に共通するものは、協調・力を合わせるということであることで、これから世界が力を合わせてこのパンデミックと戦っていく上でも意味のあることであり、我々は、これからも続くパンデミックの場面場面に順応していくことを模索し続けなければならない。一年延期という異例のオリンピックを日本は開催する権利があるし、日本だからこそ、安全対策をきっちりとって、世界がウィルスと共存し、打ち勝って行けるかを示すことができる!」と雄弁に語りました。
そして、何よりもフランスにとっては、東京オリンピックは、2024年のパリオリンピックへの大切なバトンが引き継がれるオリンピックであり、2024年は、もうすぐそこ!2024年はもう明日に迫っている!我々も準備にアクセルをかけて行かなければならない・・と力強く続けました。
もちろん、マクロン大統領の言っていることは、間違いであるとは言えませんが、多くの犠牲を強いられている開催国の日本国民からしたら、「そうは言ってもね・・」と言いたくなる内容であるに違いありません。
しかし、マクロン大統領としては、なんとしてでも2024年のパリ・オリンピックに無事にバトンタッチしてもらいたいというのが本音なのだと思います。彼は今回の東京オリンピックのためというよりは、前回のパリ・オリンピックからちょうど100年目に当たるフランスにとって記念すべき2024年のパリ・オリンピック開催のために、マクロン大統領は、東京オリンピックの開会式に出向いたといっても過言ではありません。
マクロン大統領インタビューの様子
開会式当日、パリのエッフェル塔前の広場には、東京オリンピックが生中継される巨大スクリーンが設置されたパブリックビューイング会場が設けられ、多くの人が集まっていました。この会場でさえ、屋外とはいえ、ヘルスパス(ワクチン接種2回接種済み証明書か48時間以内のPCR検査陰性証明書あるいは6ヶ月以内にコロナウィルスに感染した証明書)がないとこの会場には入場できないというのが現実のパンデミックの最中、集まっていた人たちは、開会式の様子を見守りつつも、「本当に、無観客でやっているんだ・・」と、驚いている人が多かったのにも、「無観客のオリンピック」がそれほど信じ難いことであったことにもあらためて気付かされました。
全体的に地味に抑えられた開会式の中で、フランス人の中で最も印象的であったのは、1824個のドローンが東京の夜空で描いた地球と大坂なおみの聖火点灯だったようです。
開会式翌日に発表された2024年のパリ・オリンピックの壮大な構想 パリ・オリンピック開会式はセーヌ川で!
開会式のために訪日していたマクロン大統領は、オリンピックに参加しているフランス選手にエールを送りに行ったり、菅首相と会談を行ったり、数ヶ月前にスタートしたフランスでのカルチャーパス(18歳の若者にあらゆる文化的なものに使えるチケット)に大きく貢献した今やフランスの若者の文化の大きな位置を占めているマンガ作家を訪問して、フランスと日本の文化の結びつきを語ったり、日本のビジネスリーダーに会って、フランスをアピールしたり、48時間という短い日本滞在をフルに有意義に動き回りましたが、同時に次のパリ・オリンピックへの壮大な構想を発表しました。
マクロン大統領は、パリ・オリンピックの開会式を「忘れられないイベント」にするために、「視覚的な力、感情、そして異なるリズムを式典に与える」ことが必要であるとし、ユニークで革新的で創造的であるフランス人にとっても意味深い、世界へのメッセージを伝えることを望んでいる」とし、2024年パリ・オリンピックは、カヌーのトリプルオリンピック金メダリストであるトニー・エスタンゲを組織委員会の会長に迎え、開会式をセーヌ川で行うことを発表したのです。すでに一年前には、提案されていたというこの壮大なプランは実現に向けて、すでに準備が開始されています。
水のある風景というのは、格別の美しさを放つものですが、それがパリのセーヌ川付近の美しい光景に包まれる開会式、セレモニーを美しく彩ることが得意なフランスが行う次のオリンピックの開会式が今から楽しみです。
オリンピック開催から突如としてオリンピックバージョンのCM全開
過半数以上の国民が「オリンピックは開催するべきではない」と言っていたはずのフランスでは、実際にオリンピックが始まってしまえば、当然のことながら、オリンピックは、どこかの局で必ず中継している状態となり、反対ムードは、あっさりと薄れ去り、オリンピック開会式と同時にフランスのテレビのCMは、ほとんどオリンピックバージョンに切り替わりました。日本では、国民感情を鑑みて一番にオリンピックバージョンのCMを放送しないことを決めたTOYOTA FRANCEなども、フランスでは、オリンピック全開のCMを流しています。その他、日本の企業では、ブリヂストンなどもオリンピック協賛のCMに名前を連ねていて、「ブリヂストン・・フランスの工場の一つを撤退することに往生していたのに・・」などと、微妙なことを感じたりもしました。これだけオリンピックバージョンのCMを流してもフランスでは、企業は反感をもたれない状況であると判断されているということです。
フランスのオリンピック競技報道の合間には、現地に出向いているマスコミの人が日本の街などを紹介する場面なども放送されており、現実のところ、日本をあまり知らないフランス人にも、日本が紹介されていることが日本人としては、オリンピック以上に嬉しいことでもあり、ことさら、取材をしているマスコミの人が、「とにかく、日本は素晴らしい国であると同時に、日本人の礼儀正しさ、親切さ、衛生的な環境は素晴らしいレベルであり、何よりもどこでも誰でも笑顔で迎えてくれることが嬉しい」などと、証言?しているのを聞くと、日本人としては、ことさら嬉しくなり、「そうそう!そうでしょ!もっと言って!もっと言って!」という気持ちになります。
オリンピックよりもバカンス
しかし、毎日、中継されているオリンピックも今日はフランスは◯個メダルを獲得した!などと報道されていますが、実際のところは、それほど熱狂的に盛り上がっているという感じでもなく、多くの人がバカンスに出かけているフランスでは、やはりオリンピックよりもバカンス優先というのが正直なところです。フランスは、感染状態が悪化しているものの、長距離の移動が制限されているわけでもなく、差し当たって、どちらかと言えば、目前に迫っているヘルスパスがなければ、レストランやカフェにも行けなくなり、あらゆる場面でヘルスパスが求められるようになる状況にすったもんだしています。この「ヘルスパス」の発表以来、ワクチン接種はさらに拡大されつつありますが、どうにもワクチンに反対する人、政府の強引な態度に反発する人のデモは、毎週のように続いています。
ワクチン接種の拡大により、減少し続けていた感染も、ここのところは、一気に増加に転じ、再ロックダウンする地域まで登場し始めてしまいました。昨年の段階では、気温の上昇とともに感染がおさまりかけていたというのに、まさかの真夏のバカンスシーズンにロックダウンとは・・。デルタ変異種の威力を思い知らされています。
「オリンピック開催」と「フランス人のバカンス」と、どちらが感染悪化のリスクがあるんだろう?そんなことを思いながら、フランスでオリンピック中継を見ています。
著者プロフィール
- RIKAママ
フランスって、どうしようもない・・と、日々感じながら、どこかに魅力も感じつつ生活している日本人女性。日本で約10年、フランスで17年勤務の後、現在フリー。フランス人とのハーフの娘(1人)を持つママ。東京都出身。
ブログ:「海外で暮らしてみれば・・」
Twitter:@OoieR