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パリのカフェのテラスから〜 フランスって、ホントはこんなところです

RIKAママ|フランス

フランスの若者の文化の中心は日本のマンガだった!

現在、フランスの書籍を扱う店舗FNACの入り口には、堂々たる日本のマンガの陳列    筆者撮影

フランスも他国同様、2020年3月のパンデミック以来、大きな経済的な打撃を受けてきました。ことに、1回目のロックダウンでは、生活必需品以外の全ての店舗が閉まり、ほぼ、外出は、不可能な状態でしたから、現在、ほぼ、全ての店舗や文化施設などが再開して、人々が街に出ている様子を見ると、なんだかホッとして、微笑ましい気持ちになると同時に、この全部が閉まっていたということは、どれだけの経済的な打撃であったのかを今さらのように思わせられます。

感染拡大の原因の一番の標的となったのは、飲食店でしたが、併せて人流を止めるという観点から、映画館、美術館、劇場、コンサート会場などの文化的施設も日常生活の優先順位から取り残され、つい最近まで、その全てが閉鎖されていました。

このパンデミックによる深刻な影響を受けた文化事業に対して、フランスは、ヨーロッパから110億ユーロの大規模かつ独自の支援を続けており、文化大臣は、回復期の映画・舞台芸術に対する1億5千万ユーロの追加支援をとるなど、フランスの文化継承を軸に次々と支援策を提案しています。

フランス政府が発行した18歳対象のカルチャーパス

そして、再構築されていくフランスの文化事業への支援とともに、その文化を享受する側に対しても、フランスにおける文化事業を盛り立てていく消費者として、不利な立場にある若者に対して、彼らへの文化的な好奇心を喚起させることを目的とし、まず2003年生まれの18歳を対象としたカルチャーパスなるものを発行したのです。このカルチャーパスの発行は、マクロン大統領の政策の一環で、2年間にわたり14の地域での実験が行われており、数年にわたる熟考の末、ロックダウン解除のタイミングに併せて実現したもので、文化の継承と発展を大切にするフランスならではの試みとも言えます。とりあえずの今年の18歳対象のカルチャーパスには、年間1億6000万から1億8000万ユーロの予算が見積もられています。今後、このカルチャーパスは、対象者を高校生、中学生にまで広げていく計画になっています。

今回の、このカルチャーパスの発行は、5月21日にマクロン大統領自らのTikTokアカウントから、発信されました。30秒ほどの動画で彼は、フランスの18歳に向けて、「私たちは、映画、美術館、小説、マンガ、ビデオゲーム、劇場、ラップ、メタル・・など様々な文化的な目的に利用できるカルチャーパスを発行しました。使い方は、簡単です。カルチャーパスのアプリにアクセスするだけです。このカルチャーパスは2年間有効です。このカルチャーパスを使って楽しんでください!」と拡散しました。マクロン大統領は、18歳という年齢層を考慮し、SNSを通じて若者に語りかけるという効果的な方法を取ったのです。

このカルチャーパスは、チケット(映画館、コンサート、ショー、美術館など)、文化財(本、レコード、楽器など)、芸術分野(美術機器など)、デジタルサービス(ビデオゲーム、オンライン音楽、一部のSVODプラットフォーム、オンラインプレス、電子書籍)等の幅広い用途に使用することができます。カルチャーパスは、これらの用途に使用できる金券の役割を果たします。このパスで、18歳の若者たちは、チケット、本、CDなどなどを購入することができるのです。

ただし、ある程度の制限はあり、書籍などは、書店からの購入に限っており、Amazonから配送してもらうことはできません。その他配信サービスなどでも、Netflix、Amazon Prime、Disneyではなく、Canal+、OCS、Flimo TVなどの他のいくつかのプラットフォームには、アクセスできるようになっており、同時にフランス企業をできるだけ盛り立てるように配慮されています。

カルチャーパスは、あっという間にマンガパスと呼ばれるようになった!

5月に発行されたカルチャーパスは、1ヶ月も経たないうちに、100万回以上、ダウンロードされ、現在、アプリ登録者48万7500人に達しています。やはり、SNSでの発信の効果は絶大です。・・まあ、そりゃそうです!だって、ダウンロードするだけで、300ユーロが貰えるのと同じなのですから・・。

しかし、いざ蓋を開けてみると、今のところ、カルチャーパスの利用は、5.6%が音楽、4%が映画、オーディオビジュアルが3.5%で、一番、利用者が多いのは、書籍で、全体の84%。そして、その書籍の4分の3は、MANGA(マンガ)コミックと呼ばれる日本のマンガで占められています。私が訪れた書店の入り口には、「JAPAN MANIA」などと銘打った棚が大々的に展示され、書店の中でも日本のマンガの大きな棚が6つを占め、備え付けられた棚では収まりきれない仮設の日本のマンガの棚が数えてみたら、13個もありました。

フランスの書店チェーンFNAC内の日本のマンガコーナー

一枚の写真では収まりきらないほどの書店内の日本のマンガコーナー   筆者撮影

私が覗いてみた書店は、ごくごく一般的なフランスの大きなチェーン展開の書店ですが、これが専門店ともなると、さらに凄まじい売れ行きで、コミックの売上高トップ40は、ほぼ日本語のタイトルで構成されています。専門店のレジの脇には、予約済みのマンガが山積みになり、「大多数は、普段は購入できないシリーズものを購入する」とかで、1人で10冊、20冊、時には、50冊のマンガを大人買いしていくのです。だいたい1冊のマンガが8ユーロ前後ですから、300ユーロのカルチャーパスをもってすれば、このような大人買いが可能になるわけです。

このカルチャーパスが発行されるずっと前から、フランスでは、日本のマンガは人気が高まっており、現在は、二十歳を過ぎた娘が小学生の頃から、周囲の子供たちが、「ドラゴンボール」だとか、「NARUTO」だとか騒いでいましたし、一般の書店にもマンガのコーナーができていました。また、メトロの中で、マンガを読んでいる人なども見かけるようになっていました。

ですから、今回の日本のマンガブームは、そもそも火種があったところに火に油を注いだ感じになったわけで、フランスの若者の文化の中心に日本のマンガが存在していたことを浮き彫りにさせた感じがあります。つい最近、再開された映画館で公開され、フランスでも早くも大ヒットとなった映画「鬼滅の刃」の成功もこのマンガコミックの売り上げに貢献しています。

現在、書店では、カルチャーパス=マンガパスと言われるほどにまでになり、ある青年?が、書店に「デーモンスレイヤー」(鬼滅の刃)全巻を注文し、書店に引き取りに行くと、レジで店員から、「カルチャーパスを出してください」と言われたと失笑するツイートを投稿しています。ちなみに彼は、38歳、ホンモノの大人買いでした。しかし、これは、いかにカルチャーパスを使ってマンガを買う人が多いか?、カルチャーパスがマンガパスと言われるに至ったエピソードとして、多くのメディアで拡散されています。

フランスは日本に次ぐ世界第2位のマンガ消費国

フランスでは多くのラップなどで日本語が頻繁に引用されたり、Japan Expoなどのイベント、アニメ、映画などの大成功からも明らかなように、日本の文化が徐々に浸透してきています。ことにマンガに関しては、フランスは日本に次ぐ世界第2位のマンガ消費国でもあるのです。本が売れなくなったと言われているこの時代に、マンガとはいえ、これだけの本が売れるということは、驚異的な現象でもあります。

ここ数年で急速に広まった日本食ブームの一端も、実は、このマンガの影響も少なくありません。「マンガの中で何気なく出てくる食事のシーンに出てくる日本の食べ物を食べてみたい!」そんなところから、日本食レストランに初めて行って以来、虜になった・・そんなフランス人も少なくありません。とにかく、この意外なカルチャーパスの使い道で、フランスの若者に想像以上に日本のマンガが受け入れられており、日本が好意的に受け入れられていることに、日本人である私は、何より喜びを感じています。

最初は、日本のマンガ、アニメなどから、日本に取り憑かれて、ユーチューブで大成功している登録者数1410万人を抱えるCyprien(シプリアン)というニース出身のフランス人の青年もフランスでの日本文化拡散に大きく貢献しています。下記に貼ったyoutubeの動画(2012年)も彼が少年ジャンプを笑いながら読むシーンから始まっています。実際に、コロナ前までは、彼の影響でフランスから日本への観光客が激増したとも言われており、最近の日本行きの飛行機は、フランス人でいっぱいでした。

政府の意向からは、多少ズレてはいても・・

当初のカルチャーパスは、きっと政府の本音は、フランス文化の継承と復興であったと思われますが、ルーブルなどのフランスの国立美術館などは、もともとフランスでは、26歳以下は無料で、カルチャーパスを使うまでもありません。劇場、オペラなどの歴史的なフランスの文化的なものは、実際には、18歳の若者には、なかなか敷居も高く、はっきり言って、興味のある人はごく少数でしょう。300ユーロという金額は、18歳の若者にとってみたら、なかなかな大金、それを何に使うかは、彼らの日常に根付いている身近なものであるに違いありません。そこに堂々と日本のマンガの存在が浮き彫りになったということは、今やフランスの若者の文化には日本のマンガが深く根付いているとも言えます。日本人の私としては、非常に嬉しいことで、彼らが大人になって、そんなマンガに出てくる日本を見たいといつの日か日本を訪れるようになってくれたら・・などと思います。

当初の政府の思惑とは多少ズレてはいても、「本を買うことに喜びがあることに気付いて、多くの若者が書店に足を運んでくれるようになった。マンガをきっかけに書店に出向いた若者が他の本にも興味を持つきっかけとなった」と、特に書店側は、前向きに捉えています。

今や「SUSHI」「SASHIMI」のように、日本語がそのままフランス語の中に使われるようになった日本の「MANGA」。かつては、海外では、「TOYOTA」「NISSAN」などの工業製品から、日本をイメージする人が多かったと思われますが、今は、それに、「SUSHI」や「MANGA」が加わっています。

フランス政府の発行したカルチャーパスは、日本のカルチャーパスにもなっているのです。

 

Profile

著者プロフィール
RIKAママ

フランスって、どうしようもない・・と、日々感じながら、どこかに魅力も感じつつ生活している日本人女性。日本で約10年、フランスで17年勤務の後、現在フリー。フランス人とのハーフの娘(1人)を持つママ。東京都出身。

ブログ:「海外で暮らしてみれば・・」

Twitter:@OoieR



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