アルゼンチンと、タンゴな人々
法律を変えていくアルゼンチンの女性たちの強さ
少し遡って1991年。アルゼンチンでは政治分野における"クポ・フェミニーノ"と呼ばれる、女性議員の比率を増やすための法が制定され、国会下院・上院それぞれで女性議員が30%を占めるよう目指されました。(グラフ:https://www.argentina.gob.ar/)
青が下院・緑が上院ですが、上院では30%を達成するのに10年を要するなど、簡単ではありませんでした。
そしてさらに2017年には、男女比を均等にするよう法改正され、施行年である2019年から議員数の男女比は一層均等に近づいています。
IPU(列国議会同盟)による、世界各国の議会で女性が占める割合調査によると、アルゼンチンは193か国中18位。2021年1月の時点で全体の平均値は25.5%であり、これまでで最も高い割合でした。(ちなみに日本は9.9%で166位。)
そしてこのクポ・フェミニーノは様々な分野に広まっており、なんと2019年、女性ミュージシャン部門に正式に適用されました。ここではフェスティバル・コンサート・イベントなど行う際、女性メンバーの比率30%を目指すというものです。
これに対しては現在フェミニスト間でも賛否両論がありますが、この国でミュージシャンとして活動する私はまさにリアルタイムでこの法の恩恵を受けている者のひとりです。例えばひとつのコンサートで4人の奏者が選ばれる際、男女比が半分、という状況が増えています。
アルゼンチン政府による、ピアソラ生誕100周年記念のショートムービー。出演しています。
-- 西原なつき@Buenos Aires (@bandoneona) March 15, 2021
先日、youtubeのリンクでシェアしたものがインスタグラムのアカウントにもアップされていました#ピアソラ #リベルタンゴ #バンドネオン #タンゴ #サンテルモ #ブエノスアイレス #piazzolla #Piazzolla100 pic.twitter.com/RtOtFAMuDs
こちらも男女2名ずつで出演しています。
タンゴ演奏家、特に私が演奏するバンドネオンや、楽器が大きなコントラバスの奏者は、男性が演奏するもの、マッチョなイメージがあります。女性であることが理由で出来ない仕事も多くあります。観光客向けのショーを行うブエノスアイレスのタンゴハウスでは、未だに女性バンドネオン奏者お断りのところがおよそ総数の半分~3分の1あり、過去には男装をしなくてはいけないところなども存在しました。
なので、この変化は喜ぶべきことである反面、"女性だから"選ばれ、現場で会うことが急に増えた女性の仲間たちとは(大きな声では言えませんが、)「これで良いのだろうか?」と小さな違和感を共有していたりもします。私たちは時代の変化の流れの中にいるということを実感していて、こうでもしないと変わらない現状があったのは確かです。その改革のプロセスを担っているという責任を持ちながら、「自分はその舞台に乗るべき人」であるよう、その場に恥じない演奏をしていこう、という結論に至っています。
著者プロフィール
- 西原なつき
バンドネオン奏者。"悪魔の楽器"と呼ばれるその独特の音色に、雷に打たれたような衝撃を受け22歳で楽器を始める。2年後の2014年よりブエノスアイレス在住。同市立タンゴ学校オーケストラを卒業後、タンゴショーや様々なプロジェクトでの演奏、また作編曲家としても活動する。現地でも珍しいバンドネオン弾き語りにも挑戦するなど、アルゼンチンタンゴの真髄に近づくべく、修行中。
Webサイト:Mi bandoneon y yo
Instagram :@natsuki_nishihara
Twitter:@bandoneona