シアトル発 マインドフルネス・ライフ
シアトルでヘイトクライムの被害に遭った日本人女性による、胸を打つ抗議集会スピーチ全文
前回書いた記事「シアトルでも日本人女性が暴行を受け重傷、衝撃を受ける日本人コミュニティ」では多くの反響があり、アメリカやその他の地域の海外で、偏見にもとづく嫌がらせや差別的なあつかいを受けたことがあるという数々の体験が寄せられた。
現在、シアトル在住の日本人の間でも、自分たちのできる範囲でアジア系市民への差別やヘイトクライムを無くしていく活動を始めていこうということになり、さまざまな取り組みが始まっている。
まず、シアトルの日本人支援団体である「JIA Foundation」では、オンライン・フォーラム「傍観者ではいられない!JIAで考える人種差別・ヘイトクライム」を4月25日に開催し、ヘイトクライムの被害に遭った那須紀子さんを招いて人種差別・ヘイトクライムに関して、私たちひとりひとりが何ができるかを考えていく予定だ。
また、ワシントン州在住の日本人向けの情報紙「ソイソース」や「ジャングルシティ」などが協力して、ヘイトクライムに関する情報共有サイトを立ち上げるべく動いている。これまで、英語が母国語の日系アメリカ人を含めたアジア系アメリカ人向けの団体や情報共有サイトは存在するが、日本語でのまとまったヘイトクライムや差別に対抗する支援サイトは存在しなかった。
アメリカで起こっている現状を簡潔にまとめて日本語で提供し、互いに助け合う場を作る必要性を、多くの人が感じている。ヘイトクライムへの対応策に関する日本語のリソースは、まだまだ少ない。アメリカに家族や友人がいる方、またはアメリカ在住の方は、「ソイソース」紙に寄稿したヘイトクライムへの対応策「急増するアジア人に対するヘイトクライム~自分や子どもを守るためにできること~」が少しでも役に立ってくれると嬉しい限りだ。
2月25日にヘイトクライムの被害に遭った那須さんは、体調の方は一時回復したが、また悪化し、酷い頭痛が続いているとのこと。「思ったより後遺症が長引いています。事件前は2日に一度走っていた近所のトレイル(自然歩道)も、今は歩くのがやっとです。外傷性脳損傷って怖いなと思いました。自分の中では顔の傷が治れば元気になると思っていたんですが、怪我が治っても、脳損傷のせいで身体がついていきません」
この事件を風化させないため、また、さらなる犠牲者を出さないために、できるだけその後のフォローアップ情報を出していく予定だ。那須さんは現在、「歩けないことにショックを受けて、あれからなるべく毎日、いつものトレイルを歩くように頑張っています」とのこと。
最後になるが、那須さんが、シアトルで3月13日に開催されたアジア系市民に対するヘイトクライムへの抗議集会で行ったスピーチの全訳を、以下に掲載する。世界はつながり、誰もがもはや対岸の火事として傍観していられない状況になりつつある。差別や偏見について、それぞれに改めて向き合い、考えていく時期に来ているのではないだろうか。
みなさん、こんにちは。まず最初に、愛情と支援を送ってくださったすべての皆さまに、感謝の気持ちを伝えたいと思います。その中には一度も会ったことのない人たちもいらっしゃいます。私は、今日この場所にいることを光栄に思います。
私がいま着ているこの服は、暴行を受けた夜に着ていた服とまったく同じものです。同じジャケット、同じパンツ、そして同じ靴です。血を落とすため、これらすべてを洗わなければいけませんでした。これは、容疑者が容易にできたにもかかわらず奪われなかったバッグです。これは、彼が欲しがらなかった車のキーです。彼はただ、私の顔を思いっきり殴りたかったのです。
この暴行のあと、彼が逃げたあと、警察は彼を捜索しました。警察が得た情報のすべては、容疑者に関する描写だけでした。そして、警察は彼を見つけました。どこで容疑者が見つかったと思いますか?まさにこの場所、ヒンヘイ公園でした。つまり容疑者は、私とパートナーがハーバービューの救急病棟に送られたあともまだ、この地域にとどまっていたのです。彼は一体何をしていたのでしょうか?さらなる犠牲者を探していたのでしょうか...?犯行から一週間後、暴行の様子が収められた映像を警察が入手するまで、彼は逮捕されませんでした。
キング郡の検察庁は、容疑者を2件の第2級暴行罪で起訴するそうです。検察庁からのメールにはこうあります。「もし被告が2件の犯罪で有罪宣告された場合、標準的な服役期間は12~14ヶ月になります」
12~14ヶ月という服役期間は十分でしょうか?裁判で課すことのできる服役期間は最大で10年だそうです。ということは、10年後、もしくは12~14ヶ月後にこの容疑者は自由になり、さらに多くの人を襲撃するためにここに戻って来ることができるのです。
ヘイトクライムに関して、彼らはこう言いました。「この暴行事件には強い衝撃を受け、かつ侮辱的なものであるものの、我々は、この犯罪が被害者のアイデンティティに対して『悪意を持ち意図的に』行われたものであると、法律で義務付けられているように、合理的な疑いを差し挟む余地のない程度の立証ができる十分な証拠を持っていません」
続けて、彼らはこう言いました。「我々検察庁は、ヘイトクライムをきわめて真剣に受け止めています」
あなたはどう思いますか?彼らは、私たちの安全を真剣に考えてくれていると思いますか?
私は幸運でした。殴られたのが致命傷を負う場所ではなかったので、私は幸運でした。防犯カメラがあったので、私は幸運でした...。すべての人が幸運とは限りません。この暴行事件以来、多くの人から連絡があり、彼らの受けた虐待の話を共有してくれました。私たちアジア人のこれほど多くの人がこの憎悪を経験したこと、今も経験していること、そして何もなされていないことに、強い恐怖を感じました。これらは、これまで語られなかった話です。そして、私たちはもう黙り続けることはしないでしょう。
私は小さい頃から、礼儀正しく人に親切に、そして謙虚でありなさいと言われて育ちました。不平不満を言うよりも、いまあるものに感謝しなさいという文化で育ちました...。ここにいる多くの人たちも同じ価値観を共有していることと思います。私は、もう我慢の限界だと言いたい。私たちはいま、怒るべき時期に来ています。私たちの声を聞くよう要求するべき時期に来ています。そして、正しいことがなされるよう求めるべき時なのです。
ありがとうございました。
UNBELIEVABLE TESTIMONY: Japanese American Noriko Nasu sharing her story of being a victim of a hate crime in Seattle. Part 1#StopAsianHate #StopTheAttacks #StopTheHate #seattle #seattleprotestcomms #seattleprotest #asian #AsianAmerican pic.twitter.com/4iGtA7erPq
-- Jonathan Choe Journalist KOMO News (@choeshow) March 13, 2021
著者プロフィール
- 長野弘子
米ワシントン州認定メンタルヘルスカウンセラー。NYと東京をベースに、15年間ジャーナリストとして多数の雑誌に記事を寄稿。2011年の東日本大震災をきっかけにシアトルに移住。自然災害や事故などでトラウマを抱える人々をサポートするためノースウェスト大学院でカウンセリング心理学を専攻。現地の大手セラピーエージェンシーで5年間働いたのちに独立し、さまざまな心の問題を抱える人々にセラピーを提供している。悩みを抱えている人、生きづらさを感じている人はお気軽にご相談を。