日本人コーヒー生産者が語るコロンビア
「子供達に明るい未来を」国内避難民居住区に建てられた図書館と一人の女性の願い
1960年代から半世紀以上続いたコロンビア内戦。この内戦では740万人の難民が出たと言われています。
2016年にゲリラ軍FARCとコロンビア政府は平和協定を結び、形としては内戦は終了してはいますが、平和協定後も多くの人は未だ故郷に戻ることができず国内外で貧しい生活を強いられています。
国際連合人道問題調整事務所(OCHA)によると、2021年の間に武装勢力によって住んでいた土地から強制的に追い出された人の数は最低でも64.800人。
この数字は2020年より198%も増加しているそうで、内戦が終わった今でもコロンビアは難民大国の肩書を拭えずにいるのが現状です。
ある日、メデジンで日本語教師をされている羽田野香里先生にメデジン市内のアヒサルという地域に住む一人の女性を紹介してもらいました。
彼女の名前はサンドラ・プエルタさん。サンドラさんはCOAPAZというNGOの代表で、アンティオキア県のウラバという今もなお武装勢力による暴力が活発な地域から避難してきた方です。
彼女が住んでいるアヒサルは、サンドラさんのように故郷を追われて命からがら逃げてきた国内避難民が多く住む地域。トタンや鉄板をつなぎ合わせて作られた家が立ち並ぶ場所です。
ここにはたくさんの子供が住んでいますが、通常こういった環境で育つ子供たちは勉学よりも働いて家族を養うことを優先させてしまう傾向があります。学歴がないとちゃんと職に就くことができず結局貧しい生活から抜け出すことができません。
子供たちに教育を
サンドラさんは当初べジョというメデジン北部の地域に避難し生活していました。
大学で法律の勉強をしながら、アヒサルに住む知人の手助けをするために度々この地域に足を運んでいたサンドラさん。国内避難民という自分と同じ境遇におかれたこの地域の子供達の現状や将来が次第に気になるようになります。「貧困から抜け出すためにはちゃんとした教育を受けることが必要」と考えたサンドラさんはアヒサルに引っ越し、寄付で集めた本で小さな図書室を作り活動を始めました。はじめは空いていた建物の2階のスペースを借りて子供達が自由に本を読めるようにしていましたが、様々な団体や自治体の協力もあり数ヶ月前に地域の中心地に図書館をオープンすることができたのです。
この図書室を使うためには子供たちは家庭で出たリサイクルゴミを持ってこなければいけません。ペットボトルやお菓子の袋など、持ってきたゴミの量に応じて図書館を利用できる時間が決まるのです。これには子供たちに分別やリサイクルを教えるという目的があります。
これらのゴミは集まり次第「Botellas de amor Fundación」というNGO団体に送られます。この団体はプラスチックゴミを加工し建築材料に変え、遊具やベンチなどを製造し寄付するという活動を行っているのですが、サンドラさんはこの団体を通して、自分たちが送ったプラスチックゴミでできた遊具でアヒサルに公園を作る事を目指しています。
段ボールや卵のケースなどはこの団体ではリサイクルできないので、市のリサイクル業者に売られ図書館の維持費に当てられます。
この図書館は本を読む以外にも宿題をしたり調べ物をしたりと様々な目的で利用され、居合わせた子供同士で勉強を教え合っていることもよくあるのだそうです。
日本人インフルエンサーからのプレゼント
そんなサンドラさんの図書館にクリスマスプレゼントとして寄付を申し出たのが現在メデジンに滞在しているインフルエンサーのユウジさん。(ユウジさんのインスタグラム)自らのSNSで寄付を募り、集まったお金でタブレット5台を購入。更にそのタブレットに280冊の本をダウンロードしてプレゼントしました。
「テクノロジーに触れることで世界に目を向け、たくさんの夢を見つけ目指してほしい」というユウジさんの願いが込められたタブレット。子供達はこのタブレットを通してこれからどんな世界に出会うのでしょうか。
「この地域から大学を卒業し、専門的な職業に就いてくれる子供が現れる事を夢みています」
タブレットに夢中になる子供達を見つめながらサンドラさんはそう夢を語ってくれました。
著者プロフィール
- 松尾彩香
コーヒー農家を営む元OL。コーヒーを栽培する一方で、コーヒー農家の貧困や後継者不足問題、コロンビアでの生活についてSNSを通じて発信。朝の一杯のコーヒーに潜む裏話から、日本ではあまり報じられないコロンビアの情勢まで幅広くお伝えします。2022年7月よりスペイン在住
Twitter: @maon_maon_maon