日本人コーヒー生産者が語るコロンビア
ブラジルで霜害!コーヒー価格が高騰した3つの理由
通勤途中のコンビニで100円のコーヒーを買うのが習慣になっている方。もしかしたらそのコーヒー、値上がりするかもしれません。
日本でもニュースになっていますが、世界最大コーヒー生産国であるブラジルに霜害の被害が報告され、現在コーヒーの価格が高騰しています。アラビカコーヒーの先物価格は1ポンド当たり$2を上回っており、これは2014年10月以来7年ぶりの高値となっています。UCC上島コーヒーは既に9月からのレギュラーコーヒーの値上げを発表しており、今後さらに値上げを余儀なくされる企業が出てくるかもしれません。
コーヒー生産量世界3位を誇るコロンビアもこの出来事に大きな影響を受けているので、今回はコロンビアのコーヒー生産者である私が価格上昇の理由について解説してみたいと思います。
異常気象がブラジルを襲う
2020年のコーヒー生産量が過去最高を記録したブラジルでしたが、同年11月に干ばつの被害に見舞われました。
今年に入ってもブラジルの異常気象の影響はおさまることはなく、本来雨季であるはずの3月4月にも雨が降ることはありませんでした。さらに追い討ちをかけるように6月末からブラジル南部は歴史的な寒波に見舞われており、特にミナスジェライス州南部を中心とした有名なアラビカ種のコーヒー生産地に大きな被害が報告されています。パラナ州ではほぼ全ての地域で霜が確認されており、ブラジルのコーヒー生産に大きな被害を与えることは間違えないでしょう。
Brazilian coffee farmers are facing severe frosts, which are expected to continue and worsen through August.
-- Specialty Coffee Association (@SpecialtyCoffee) July 29, 2021
Please read this message from CEO @wisifosetra to Brazilian farmers and to green coffee buyers with suppliers in Brazil: pic.twitter.com/zI8M0cjaYZ
コーヒーの葉は多く水分を含んでいるため凍結しやすく、凍結した葉は焼けて茶色く変色し枯れてしまいます。樹齢が5年ほどたった木は完全には枯れることなく生き残れるかもしれませんが、若い木は幹が細く特に繊細なため、この寒波を生き残ることは難しいかもしれません。今の段階ではどの木が生き残ってどの木が枯れてしまったのかの判断が難しいため、具体的な被害の大きさを把握にするにはまだ時間を要するようです。
ブラジルの収穫期は5月〜8月とされており2021年の収穫はほぼ終わっているため、今年の収穫量に与える影響はそこまで大きくないかもしれませんが、来年の収穫でこの降霜の被害を実感することになりそうです。というのも、2022年に収穫するためのコーヒーは今年の9月の雨季に一気に花を咲かせるからです。既にいくつかのコーヒーの木が花の蕾をつけ始めていたであろうこの時期に霜が降りてしまったことで、来年の収穫量が激減する事は避けられないかもしれません。さらにコーヒーの木自体が死んでしまった場合は剪定や植え替えを要し、その木が実をつけるまでに成長するには数年かかってしまうため、この霜による被害の影響は長く続くことが予想されるでしょう。
コロンビアの道路封鎖
コロンビアでは4月28日から政府への抗議デモが行われており、それに合わせて各地で道路封鎖が行われました。
コロンビアの主要港であるブエナベントゥラに繋がる道が封鎖されたことによって、各地で収穫されたコーヒーが港にたどり着くことができずに輸出が滞ったことも価格上昇の理由の一つといえるでしょう。
現在ようやく封鎖は解除されてましたが、この輸出の遅れを取り戻すには3ヶ月かかると言われています。
消費国の在庫不足
パンデミックの影響で船やコンテナの数が不足し、スムーズに輸出入ができなかった2020年。消費国は倉庫に保管していたコーヒーを使うことで供給を繋いできました。しかしその在庫も残りが少なくなってきており、最大のコーヒー消費国であるアメリカではコーヒーの在庫の量が過去6年で最も少ない状態なのだと言われています。
コーヒー大手のネスレのプレミアムコーヒー部門であるネスプレッソは、アメリカはコーヒーの高値がどれだけ続くか様子見の姿勢をとっているとコメントしているようですが、今回起こった生産大国ブラジルの悲劇はすぐに回復するとは考えにくく、あらゆるコーヒー関連商品の値上げは不回避といえるのかもしれません。
コロナウイルスに対するワクチン接種が進み、世界ではレストランやカフェの営業が再開されるなど日常を取り戻しつつあります。こうした需要の上昇と供給の激減が、今回のコーヒー価格の上昇を引き起こしているのです。
生産量第3位のコロンビアでは
コロンビアでは7月26日にコーヒー125kgの価格が至上最高額の$1.905.000を記録。数字だけ見ても分かりづらいと思いますが、私がコーヒー栽培を始めた2018年はこの価格が平均$735.000だったことから、当時の2倍以上に価格が跳ね上がっていることがわかります。
この価格を記録したのは為替の影響も大きく、1ドルが4.000ペソ近くまで上がったこともコロンビアにおいてのコーヒーの価格を押し上げた要因の一つといえるでしょう。
コロンビアコーヒー生産者連合会のロベルト・ベレス代表は、このブラジルでの被害による値上がりについてツイッター上で同情のコメントを残すと同時に「私たちは生産国同士では競争しないということを忘れてはいけない」とブラジルに寄り添う姿勢を見せ、また「気候変動は現実に起こっている!」と改めて環境問題への危機感を強めました。
価格が上がり収入が増える事は喜ばしい事ですが、同じコーヒー生産者として干ばつと霜害を経験したブラジルの農家の気持ちを考えると胸が痛みます。
コーヒー栽培は自然が相手。明日は我が身と気を引き締めるとともに、コーヒーをはじめとするブラジルの農産物への被害が少しでも小さく済むように祈るばかりです。
著者プロフィール
- 松尾彩香
コーヒー農家を営む元OL。コーヒーを栽培する一方で、コーヒー農家の貧困や後継者不足問題、コロンビアでの生活についてSNSを通じて発信。朝の一杯のコーヒーに潜む裏話から、日本ではあまり報じられないコロンビアの情勢まで幅広くお伝えします。2022年7月よりスペイン在住
Twitter: @maon_maon_maon