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日本人コーヒー生産者が語るコロンビア

松尾彩香|コロンビア

安楽死合法もいまだに議論が続くコロンビア

©️iStock - demaerre

コロンビアは世界でも少ない、そしてラテンアメリカで唯一安楽死が法律で認められている国です。

1997年に公布され、これまで124人に安楽死が施行されてきました。

今回なぜこのテーマを取り上げたかというと、6月22日にヨランダ・チャパロさんが安楽死を決断したというニュースが報じられてからこの1ヶ月間、様々なプラットフォームで安楽死について議論が交わされているからです。

日本では去年11月に京都で起きたALS(筋萎縮性側索硬化症)患者の嘱託殺人事件がきっかけに同じように議論されたと思いますが、今回はコロンビアの安楽死の現状やそれに対してどんな意見が上がっているのかここで紹介したいと思います。

 

議論のきっかけ

「痛みに満ちた身体に支配されているんです。恐怖、苛立ち、怒りを感じます。だってもう機能していない身体の中で生活しているんですから」

ヨランダ・チャパロさん、71歳。2年前にALS(筋萎縮性側索硬化症)と診断を受けました。ALSは体を動かすために必要な筋肉がどんどん徐々に痩せていき力が入らなくなる病気です。

スクリーンショット 2021-07-18 午後11.29.12.png

©️YouTube - "Ya no voy a estar atrapada en un cuerpo que no sirve": la eutanasia, la última cruzada de Yolanda

ヨランダさんはとてもアクティブな人でした。フェミニストでもあり、デモ行進にも活動家として積極的に参加。友達と映画やダンスに出かけたり、カナダとアメリカに住んでいる娘たちに会いに海外に行くことを楽しんでいましたが、この病気を患ってしまってからその全てができなくなってしまいました。

ヨランダさんの弁護士であるルーカス・コレア氏はヨランダさんが安楽死を遂げるまでの道のりをこう振り返ります。

「ヨランダさんは安楽死を受けるほど病状が悪化しているわけではないので候補者にはなれないと言われました。寝たきりになるとか、車椅子でないと生活できないとか、食事や排泄のために介護が必要になるほどまでに悪化するまで待たないといけなかったのです。」

そのレベルに達するまで生きていたくないというヨランダさんの想いも虚しく申請はことごとく却下されました。

その間にヨランダさんの病状は日に日に悪化し、はじめは身体の痛みだけだったのがチューブがないと呼吸が困難な状態に。体が思うように動かず転倒することが増え、車椅子生活を余儀なくされました。

ようやく安楽死施行の日にちが決まるころには13カ月の月日が流れていたのです。

6月25日午後、ヨランダさんは自宅で安楽死しました。

 

「死ぬ時は神様が決める」

コロンビアは人口の約95%がキリスト教でそのうちの90%がカトリックだと言われています。信仰心がとても強く、何かをしてあげると「ありがとう」の代わりに「神の御加護がありますように」と言われ、「元気?」と聞くと「神様のおかげでね」と返ってくるほど、コロンビアの日常会話にも神様の存在が欠かせません。

今回このヨランダさんの安楽死の報道が流れた時、YouTubeやTwitterのコメント欄にはキリスト教信者からたくさんのコメントが残されました。

「神に申し訳ない。神様こそが私たちの命の主であり、死ぬ時は神が決めるのに・・・」

「信仰がないなんて可哀想なセニョーラだ。」

「神様、彼女の無知と罪をお許しください。」

 

『命の主は神様』という考えが彼らには強いため、自分で死の選択をする事は彼らにとっては神に対する冒涜であり許し難き行為なのだそうです。カトリック教会もヨランダさんのケースを受けて「安楽死は道徳的に受け入れがたい」として正式に抗議の声をあげています。

同じような理由でコロンビアでは妊娠中絶手術は違法となっており、フェミニスタや若者を中心に頻繁に抗議活動が行われているのが現状で、命に関する選択には『命の主が神様なのかその身体の持ち主なのか』という議論がこの国では重要になっているようです。

 

「規則をきちんと定めて欲しい!」

コロンビアでは安楽死が合法とは言っても、実は明確な規則はまだ定められていないのです。

これまで何度も国会議員が規則を定めるよう法案を提出してきましたが、いまだにその法案が通過したことはありません。今年4月に行われた本会議ではこの法案に対して賛成82票、反対5票という結果になりましたが約70人もの議員がディベートに参加をしなかったため再び否決されてしまいました。

実際に安楽死を行う医師や、キリスト教信者からの反対の声がまだ大きく、合法化はしたもののはっきりとした規則を定めることができないが故に実際に安楽死を断り続けられている患者が多くいるのが現実です。

 

様々な価値観や背景があるため安楽死を良い悪いの一言で判断するのは不可能とも言え、これをめぐっての正解のない議論は長期間、もしかすると一生続くものなのかもしれません。

あなたは安楽死には賛成ですか?反対ですか?

 

Profile

著者プロフィール
松尾彩香

コーヒー農家を営む元OL。コーヒーを栽培する一方で、コーヒー農家の貧困や後継者不足問題、コロンビアでの生活についてSNSを通じて発信。朝の一杯のコーヒーに潜む裏話から、日本ではあまり報じられないコロンビアの情勢まで幅広くお伝えします。2022年7月よりスペイン在住

ブログ: http://campesinita.com

Twitter: @maon_maon_maon

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