日本人コーヒー生産者が語るコロンビア
男女平等へまた一歩!コロンビアで制定される新しい法律
近年「ジェンダー問題」は世界中で注目されているテーマなのではないでしょうか。コロンビアでも2016年に同性婚が法律で認められるなど、ジェンダーに関する様々な議論が日々行われ、注目を集めています。
日本でも最近では「選択制夫婦別姓」や「男性育児休暇義務化」が話題になりネットを中心に賛否両論飛び交っていますが、コロンビアではこの2つのテーマに関連した新しい法律が制定されようとしているので紹介したいと思います。
男性の育休と育休シェア制度
コロンビアにも男女ともに育休制度は存在します。
男性の育休は、当時男性の育休制度がないことから生まれたばかりの娘さんと過ごすことができなかった一人の議員によって提案され、2002年に制定されました。この男性育休制度は、この議員の娘さんの名前にちなんで「マリア法(Ley Maria)」と呼ばれています。
制定から20年が経とうとしている今、8日間だけだった男性育休を2週間に伸ばそうというというプロジェクトが始動しました。
この法案の代表者ホセ・ダニエル・ロペス議員は、コロンビアのメディアであるノティシア カラコルのインタビューの冒頭で「男性は自分の子供を育てるアシスタントでもお手伝いさんでもありません。私たちは共同責任者であり、子供を育てる義務は50:50です。」と男性の育児の義務を強調し、男性が育休を取得する重要性を訴えました。このロペス議員も8月には父親になるという事で、インタビューの最後では「僕が初めての2週間の育休取得者になります。」と笑顔を見せる場面もありました。
この法案は6月17日に行われた本会議にて賛成多数で可決され、正式な制定まで秒読みの段階まできています。
新しい法律で男性育休は2週間に延長しますが、今後様子を見ながら少しずつ期間を伸ばし最終的には5週間まで育休取得可能になるとのことでした。
Ahora los papás podrían pasar más tiempo con sus bebés recién nacidos
-- Noticias RCN (@NoticiasRCN) June 18, 2021
Congreso aprueba ampliación de la licencia de paternidad en el país https://t.co/PUiTCOBGVT pic.twitter.com/dHpHK359hY
またこの法律と一緒に制定秒読みとなっているのは「育休シェア法」。
現在コロンビアで女性は最大18週間の産休・育休が取れることになっており、そのうちの12週間は育休にあてるようにとされています。育休シェア法はこの12週間の最後の6週間を父親か母親どちらが取得するかを選べるというものです。育休12週間を全て女性が取得する事もできますし、6週間まるっと父親に譲ることも可能。また、母親と父親で3週間ずつ取得することも可能です。
この法律は女性の雇用に大きなメリットをもたらすものとなります。コロンビアでの女性の失業率は深刻で、若い世代の女性は4人に1人が無職と言われていますが、その大きな理由のひとつが「雇用する側のリスク」。日本でも同じ問題を抱えていますが、同じ年齢の若い男性と女性が職を求めていたら企業側は妊娠して職を離れてしまう可能性がある女性より男性を雇用しがちのため、男女の雇用格差が生まれているのです。
育休シェア法が制定されれば女性の育休期間は12週間、男性は2週間でも、6週間育休をシェアすれば女性の育休期間は6週間、男性は8週間となるため出産が理由の雇用格差を減らすことができ、女性の失業問題を改善する大きな鍵となりそうです。
Plenaria del Senado aprobó la ampliación de la licencia parental compartida en Colombia https://t.co/Olgt03Yt7E
-- Revista Semana (@RevistaSemana) June 18, 2021
苗字の順番を自由に
スペイン語圏の名前は、名前が2つと苗字が2つあるのが一般的で、名前を名乗る際は一つの名前と初めの苗字で名乗ることが多いです。コロンビアを代表する歌手シャキーラを例に出すと、彼女のフルネームはシャキーラ・イサベル・メバラク・リッポールですが、名前を名乗るときは「シャキーラ・メバラクです」と名乗るということになります。
苗字の順番は1つ目の苗字が父親の1番目の苗字で2つ目が母親の1番目の苗字と順番が決まっているのですが、この新しい法律が制定されれば、この順番を選べるようになるのです。例えば今までは父・田中太郎さんと母・鈴木花子さんの子供の苗字は自動的に「田中・鈴木」となっていたのですが、今後は双方の同意があれば「鈴木・田中」とすることも可能になるのです。
「男女に親として同じ権利があるのなら、苗字の順番を選択する自由もあっていいはずだ」とマリア・ピサロ議員によって提案されたこの法案は、女性を中心に大きな支持を受け、賛成29票・反対2票で可決されました。
コロンビアのシングルマザー率は高く、コロンビアでは母親の半分以上にあたる56%の女性が家計を担っており、更にコロンビア全体の40,7%の世帯が女性が一家の大黒柱の役割を果たしていると言われています。コロンビアでは日本のように「後継ぎ」や「苗字を残す」という文化は特にありませんが、「母親の苗字を先に名乗る選択の自由」を与えることは男女平等の社会への大きな一歩となる事は間違いないでしょう。
Pasa a sanción presidencial proyecto que permite acordar el orden de los apellidos. https://t.co/1crctX5cCF pic.twitter.com/T108QRO6MM
-- elespectador (@elespectador) June 16, 2021
著者プロフィール
- 松尾彩香
コーヒー農家を営む元OL。コーヒーを栽培する一方で、コーヒー農家の貧困や後継者不足問題、コロンビアでの生活についてSNSを通じて発信。朝の一杯のコーヒーに潜む裏話から、日本ではあまり報じられないコロンビアの情勢まで幅広くお伝えします。2022年7月よりスペイン在住
Twitter: @maon_maon_maon