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トルコから贈る千夜一夜物語

木村菜穂子|トルコ

トルコ南部の大規模な山火事は本当に放火によるものか?

iStock - Forest Fire

7 月 28 日に起き始めたトルコ南部のリゾート地アンタルヤでの山火事。すぐに収まると思いきや、7 日経っても収まる気配がまだありません。最初の山火事が報告されてから数日の間にアンタルヤから付近の別のエリアにも飛び火し、この 7 日間で、32 以上の地域 (州)で合計 132 もの山火事が起きているということ。そのほとんどはすでに鎮静化していますが、7 日経ってもまだ燃え続けているエリアもあります。

ここ数十年で最悪の規模といわれる今回の山火事。下の Youtube の動画でその規模の大きさを少し見ていただけるかと思います。

山火事が深刻なトルコ南部

特に深刻で大規模な山火事が起きているアンタルヤやムーラ (Muğla) は地中海沿いのエリアで、トルコ人だけではなく外国人にも大人気のリゾート地。下の地図で赤くなっている部分が現時点でも火事が続いているエリアです。その他の色付けされたエリアは、火事が起きたものの、現在では収まっているエリアです。非常に広範囲にわたっていることがお分かりいただけるかと思います。

トルコ山火事 エリア アルジャジーラ.JPG

コロナ禍で昨年は観光客減少にあえいだトルコ。この夏は、アンタルヤにロシア人観光客が 7月の 2 週間で 30 万人以上押し寄せるなど、回復の兆しを見せていました。そこへこの山火事。ツーリストたちも避難を余儀なくされており、山火事が収まったとしてもこの夏のさらなるツーリストの誘致は難しくなります。

山火事が広がった理由

この山火事がなぜここまで広がったのか...。地球温暖化による環境の変化が一番に挙げられます。この時期、トルコ南部は連日 40 度ほどの気温。時には 50 度近くにまで達することがある猛烈な暑さ。それに加えて、乾燥した空気と強風。山火事が広がるのは言わずと知れたこと。

さらにトルコ南部は山間部となっており、うっそうとした森が広がります。また森には松の木が多いようで、燃えた松ぼっくりがはじけて近くの木々に飛んでいくことで、どんどんと火の手が広がっていくようです。

今回の山火事の被害者たち

一瞬にしてすべてを失った人たちの多くが森とともに何十年も共存してきた農業従事者たち。小さな村が点在していますが、小さな村に支援の手はなかなか届かず、なすすべもなく家が焼け落ちるのを見るしかありません。

こうしたエリアには農場も多くあり、今回の山火事で牛や羊など多くの家畜が犠牲になりました。さらに森林に住む多くの野生動物たちも焼け死にました。逃げ惑う牛たちに向かって「早く! こっちに来い!」と必死に叫んでいる動画などが公開され、とても心が痛みます。動物たちはどこに逃げればよいか分かりません。迫りくる火の手にあっという間に飲まれてしまいます。

奇跡的に生き残ったヤギの赤ちゃん.JPG奇跡的に生き残ったヤギの赤ちゃん。Miracle という名前が付けられました。Youtube - TRT の番組より

現時点で、犠牲になった人の数は消防隊員も含めて 8 名。さらに 800 人以上の人が病院での治療を受けているということです。

早い段階で政府は多くの消防隊員を派遣していましたが、山火事の件数が多すぎる (次から次へと起きる) こと、それから消火防災用のヘリコプターや飛行機が足りなかったことなどから、鎮静化にてこずっています。隣国のウクライナやロシアが飛行機による消火活動に参加しています。また、スペインとクロアチアからも飛行機の支援が新しく入りました。さらにアゼルバイジャンなどから救援隊が派遣されています。

いったん燃え始めると、もう手が付けられないのが森林火災。乾燥した空気と強風にあおられて、ありとあらゆるものを焼き尽くしていきます。トルコ南部のこのエリアは森林火災が起きやすいエリアで、火事は初めてのことではありません。ただし規模がこれまでと明らかに違う。

今回の山火事はなぜ起きたのか?

同じ時期にギリシャやイタリアでも大規模な森林火災が起きています。ですから前述のように温暖化による環境の変化が一番の要因といえます。ただしトルコ南部では今回、4 つの山火事が同時に別々の場所で起きました。ですから「放火」説がささやかれているのも事実。

実際、森林火災のほとんどがタバコのポイ捨てなどの人為的な要因によるものだそうです。今回も何気ないタバコのポイ捨てなどがきっかけになったことは容易に考えられます。ただしトルコ国内では、もっと「意図的な放火」説も根強く、テロ組織とみなされているクルド人の PKK (クルド労働者党) による仕業ではないかという見方があります。これには現時点で全く証拠がありません。証拠が全くない時点での憶測は非常に危険だと思います。憎しみをあおり、トルコ国内を分断するだけで、百害あって一利なしだからです。

実際、このクルド人の放火説と直結するわけではありませんが、コンヤでクルド人の家族 7 名が殺害される事件が 7 月 31 日に起きています。これは 2 家族間の長年の積もり積もった軋轢 (あつれき) が惨殺という結果になったと報道されています。つまり、クルド人という人種ゆえに狙われたわけではないというのが政府の見解です。実際のところは私たちには分かりません。

とはいえ、クルド人による放火説やクルド人家族の惨殺などのニュースは、トルコ国内にかなりのダメージを与えるのではないかと思います。政府は山火事の原因を特定するためにあらゆる努力を惜しまないとしています。今後新たな事実が明るみに出るかもしれません。

備えあれば憂いなし...?

いずれにしても、地球温暖化ゆえの環境異変は今後も続くでしょうから、災害に備えることが急務になっています。日本でもそうですが、災害が起きた後に「想定外の津波」「想定外の雨量」などと表現されます。トルコ南部で起きている今回の山火事も「想定外」。

備えがしっかりできていなかったという批判の声が上がり始めています。例えば、消火防災用のヘリコプターはトルコには常備されていなかったようです。森林火災がこれまでから起こりやすいエリアだったのにも関わらず、です。今回の火事では、他国からのヘリコプター派遣に頼るしかありませんでした。

個人レベルとしては、筆者も Go bag (災害時の緊急避難用のカバン) を準備しています。自然災害は明日は我が身。いつ何時自分が巻き込まれるか分かりません。

今回の火事ができるだけ早く鎮静化することを願いつつ、昼夜を徹して消火にあたっておらえる隊員の方たちに心からの敬意を表したいと思います。また被害に遭われた方たちに支援の手ができるだけ早く届くように願っています。

 

Profile

著者プロフィール
木村菜穂子

中東在住歴17年目のツアーコンサルタント/コーディネーター。ヨルダン・レバノンに7年間、ドイツに1年半、トルコに7年間滞在した後、現在はエジプトに拠点を移して1年目。ヨルダン・レバノンで習得したアラビア語(Levantine Arabic)に加えてエジプト方言の習得に励む日々。そろそろ中東は卒業しなければと友達にからかわれながら、なお中東にどっぷり漬かっている。

公式HP:https://picturesque-jordan.com

ブログ:月の砂漠―ヨルダンからA Wanderer in Wonderland-大和撫子の中東放浪記

Eメール:naoko_kimura[at]picturesque-jordan.com

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