Fair Dinkum フェアディンカム・オーストラリア
9年ぶりに政権交代、新首相アルボと総選挙後のオーストラリアの行方
政権交代で政策が180度変わるオーストラリア
オーストラリアでは、与党と野党が入れ替わると、ほぼ180度政策が変わると言っても過言ではない。それもそのはずで、日頃から野党側は、与党がやっている政策に対して国民が不満に思っている部分を是正する政策を掲げているからだ。
最大野党は、自分たちが政権をとった場合は、どのように政治を行っていくかがわかりやすいよう、「陰の内閣」を組織し、本来の内閣と同じように各閣僚を立てて政策提案をしていく。このため、国民もこの政党が与党になった場合にどうなるのかがイメージしやすい。
たしかに、国民から不満が噴出している部分にとくに焦点を当て、それを解決する政策を立てるのだから、不満解消に繋がり、政権与党と野党が逆転する選挙結果になるのも当然なのかもしれない。
だが、話はそう単純ではない。これまで与党であった保守連合は、自由党(前モリソン首相は自由党)、国民党をメインとする複数の党が手を組んだ連立政権だったが、今回政権奪取した労働党は、一党で過半数を獲得する見込みだ。これは、政策を決める際に、他の誰か(他党)の承認を得る必要がなくなり、一党単独で決めてしまうことができるようになることを意味する。
今回の総選挙では、とくに人口が密集する都市部において、インディペンデント(無所属)候補の躍進が目立った。(参照)
こうした大勢の人が支持したどこの党にも属さない無所属議員の意見を政治に取り入れていくことこそ、本当に庶民の声をすくいあげることになると思うのだが、一党で過半数議席を獲得できるとなると、そうはならなさそうなところが少々気がかりだ。
ちなみに、2010年の総選挙では、当時与党であった労働党と野党(保守連合)が大接戦となり、どの政党も過半数に達することができないハングパーラメントとなった。労働党はこの時、過半数を達成するために、無所属議員を自分たちの側に引き入れることで、かろうじて政権与党を維持した過去がある。こうした場合、与党側についた無所属議員にとっては、仕方なくついてやったという貸しがあるので、自らの意見を政治に反映させやすい。
豪労働党による政治はオーストラリアをどう変える?
主要メディアの報道では、政権交代しても前モリソン政権が行ってきた「対中強硬路線を継続」と伝えられているが、労働党は、以前から中国寄りであったことから、再び親中路線になっていくのではないかという懸念は拭えないとする向きが強い。(参照1, 2)
また、労働党は昔から環境問題に積極的な党だ。今回の政権奪取で外務大臣となったペニー・ウォン氏は、前回の労働党政権下で誕生したオーストラリア初の気候変動対策大臣でもあった。こうしたことからも、気候変動問題に対して後ろ向きだと批判されてきた前モリソン政権とは真逆に、この問題にいち早く取り掛かることが予想される。(参照)
そして、前モリソン政権が「コロナとの共存」を掲げて緩和してきたコロナ対策についても見直しをし、まずは、前政権の失敗で伸び悩んでいると(労働党が)主張している3回目ブースターと共に4回目の接種対象を広げ、ワクチン接種を強化していく意向だという。(参照)
豪政界きっての苦労人であり、庶民的で親しみやすい雰囲気のアルボが首相となったのは大歓迎だが、政治的には暗中模索状態が続きそうな気配が漂う。オーストラリアは、これからどこへ向かうのだろうか?〈了〉
著者プロフィール
- 平野美紀
6年半暮らしたロンドンからシドニーへ移住。在英時代より雑誌への執筆を開始し、渡豪後は旅行を中心にジャーナリスト/ライターとして各種メディアへの執筆及びラジオやテレビへレポート出演する傍ら、情報サイト「オーストラリア NOW!」 の運営や取材撮影メディアコーディネーターもこなす。豪野生動物関連資格保有。在豪23年目。
Twitter:@mikihirano
個人ブログ On Time:http://tabimag.com/blog/
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