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平野美紀|オーストラリア

やんちゃなダメ犬の華麗なる転身!コアラ捜索犬、100頭以上救助の功績で表彰

トム・ハンクスさんが「これはディズニーが映画にしなければ!」と発言し、有名になったコアラ捜索犬『ベア』。この度、野生動物救助への貢献度が認められ特別賞が授与された。(筆者撮影)

2019~2020年の夏に起きた大規模森林火災をオーストラリアでは「ブラック・サマー」と呼ぶ。

1,700万ヘクタール以上の面積が焼け、これは日本の本州面積の3分の2以上に当たる。30人以上が死亡、5,000軒以上の家屋が焼失、野生動物を含む、10憶以上もの生き物が死亡するという、まさに『暗黒の夏』であった。

そんな、暗黒の世界を照らす希望の光のように、脚光を浴びたのが、黒焦げになった森からコアラを救助する使命を帯びた「コアラ捜索犬」だ。

被災地で犬にコアラ救助活動を担わせるこの活動について、ハリウッド俳優のトム・ハンクスさんやレオナルド・ディカプリオさんら、多くの著名人が興味を示し、ハンクスさんが「なんとかわいい」「映画にしなければ!」と発言したことで、瞬く間に世界的に有名になったのが、『ベア』と名付けられたコアラ捜索犬。現在、6歳のオーストラリアン・クーリーという犬種のオスだ。(参照

トム・ハンクスさんがSNSに投稿した動画をツイッター・ムービー公式がまとめ動画にしてツイート。ベアの話は 1:22 あたりから。

ベアは、先の森林火災現場から100頭以上のコアラを救助。先日、その功績が評価され、野生動物の救助や福祉、研究などに貢献した人へ贈られる「IFAW(国際動物福祉基金) アニマル・アクション・アウォード2021」で、特別賞を授与された。(参照

2020年1月に取材のためにベアを訪ね、実際に訓練の様子を見てきたことがあり、その時、コアラ捜索犬チームの担当者から聞いた話が、なかなか興味深かった。

犬の嗅覚が優れているのは周知の事実だが、どんな犬でも簡単にコアラ捜索に向いているわけではないという。そもそも、野生のコアラを見つけると襲い掛かってしまう犬も多い。犬も人間と同じように、向き不向きがあり、なかでもベアは、後述する『ある理由』から適任だったのだそうだ。

米PBSによるコアラ捜索犬「ベア」のショート・ドキュメンタリー(Nature on PBS)



ベアが多くのコアラを探すことができた驚きの理由とは

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訓練に出かけるためにベストを着せてもらったベア。うれしさのあまり(?)それまで以上に落ち着きがなくなって、せわしなく動き回るため、まともに写真が撮れない状態に...(筆者撮影)

普段から落ち着いていておとなしく、性格が穏やかで、人間の指示に従って的確に行動できる犬こそ、こうした任務に向いているのだろう、と思いがちだが、ベアはそういうわけではない。

おとなしく性格が穏やかな犬ではないのに、なぜコアラ捜索に向いているのか?

どちらかといえば、ベアはまったく逆の性格だ。ベアは、仔犬の頃からあまりにもやんちゃで誰にでも吠えまくるため、飼い主が困り果ててお手上げ状態となり、飼育放棄したダメ犬だったのだそうだ。

飼い主が手放し、ドッグ・シェルターのようなところで暮らしていたところ、コアラ捜索のために犬の嗅覚が役立つのではないかと、適任の犬を探していたチームの目に留まったのが、ベアだったという。

なぜ、そんなやんちゃなダメ犬がコアラ捜索犬に向いているのか?という疑問への答えは、かなり意外で、驚くというより、思わず大笑いしてしまうような理由だった。

BearDog3.jpg

ベアと、同じチームでコアラ捜索犬として訓練しているビリー(メス/手前)。自然保護区でコアラの抜け毛や糞、尿などを使って素早く臭いを嗅ぎ分ける訓練をする直前の様子。(筆者撮影)

ベアは、お気に入りのテニスボールやおもちゃで遊んでもらうのが大好きで、絶対に飽きないのだという。人間に投げてもらったボールやおもちゃを拾ってきては、「やって、やって」といわんばかりに、いつまでも何度でも、とことん遊び続けるタチ(性質)なのだ。

〔※実は、取材中のちょっとした合間にも、ベアがお気に入りのテニスボールをくわえて私の前に置き、投げてくれと懇願のまなざしを送ってくることが度々あった。でも、そのボールが半分壊れているうえ、唾液でベトベトで触るのすら気持ち悪いくらい汚れていて...仕方ないから付き合ったけども、、(笑)〕

この、決して途中で飽きたり、諦めたりしない『こだわり気質』を利用して、コアラを探す度にボールやおもちゃを投げてやることで、ベアは、コアラを探すと「何度でも遊んでもらえる!」と認識し、コアラ捜索を学習させることが容易だったのだという。つまり、ベアとしては、遊んで欲しいからコアラを探すだけなのに、期せずしてコアラ救助の一翼を担っていたのだ。

コアラ捜索犬プロジェクトは、森林火災で被災したコアラをなんとかして救助したいと願う人間にとっても、何度でも遊んで欲しいベアにとっても見返りが大きい、双方にとってハッピーなウィンウィンの関係だった。さらに、この度、遊びたい一心でやっていたことが表彰されるという幸運にも恵まれた。

やんちゃなダメ犬だったのに、意外なところで能力を発揮し、世界的に有名なインテリジェント犬として華麗なる転身を遂げたベア。

アニマル・ライツ(動物の福祉)の観点から、「動物を人間ために利用することは搾取である」という意見を耳にすることがあるが、ベアと人間の関係は、そうとは言えないようだ。〈了〉

 

Profile

著者プロフィール
平野美紀

6年半暮らしたロンドンからシドニーへ移住。在英時代より雑誌への執筆を開始し、渡豪後は旅行を中心にジャーナリスト/ライターとして各種メディアへの執筆及びラジオやテレビへレポート出演する傍ら、情報サイト「オーストラリア NOW!」 の運営や取材撮影メディアコーディネーターもこなす。豪野生動物関連資格保有。在豪23年目。

Twitter:@mikihirano

個人ブログ On Time:http://tabimag.com/blog/

メディアコーディネーター・ブログ:https://waveplanning.net/category/blog/

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