コラム

ロシアによるウクライナ軍事侵攻以後の世界を想定する

2022年02月28日(月)15時35分

「世界を既に変えてしまった」という認識を持つ必要がある...... EUTERS/Gonzalo Fuentes

<ロシアとウクライナの間で勝敗がつくという前提で、その後に何が起きるのか、ということについて考察していく......>

ロシアによるウクライナ侵攻が行われたことで、現在もウクライナ全土で激しい戦いが継続している。欧米は当初の及び腰を改めてウクライナによる支援を拡充しており、ロシアに対してSWIFT排除も含めた強力な制裁を行う判断を下した。それに対してロシアは核による報復をチラつかせるエスカレーションに及んでおり、同軍事侵攻を巡る問題は激しさを増す一方と言える。

しかし、戦争は永遠に継続することはない。それは小説1984のような世界の話であって、現実の世界の戦争には必ず終焉のタイミングが訪れる。ロシアとウクライナの形で何らかの形で決着がつくことは間違いのない事実だ。

そこで、本稿ではあくまでも現状の延長線上で、ロシアとウクライナの間で勝敗がつくという前提で、その後に何が起きるのか、ということについて考察していくことにしたい。

ロシアが圧倒的な戦力でウクライナを屈服させる場合

まずロシアが圧倒的な戦力によってウクライナを屈服させるケースを考えていこう。その結果として発生することは戦後秩序の完全な終焉だ。既にアルメニア・アゼルバイジャン間でのナゴルノカラバフ紛争によって力による領土奪取を禁止する原則は崩れてはいるものの、国連安保理常任理事国のロシアが堂々と原則を破ることは深刻な影響をもたらすだろう。

なぜなら、それは世界中で「力こそが正義」という理屈が罷り通るということを意味するからだ。その結果として、隣国との領土紛争に備えて、世界各国での軍拡が大幅に進むことが想定される。既にドイツもGDP比2%以上の軍事費を計上する方針を発表したが、対ロシアという文脈での西欧の軍事費増強だけでなく、東南アジア、中東、南アジア、中央アジア、アフリカなどの領土問題を抱える全ての地域が軍拡によって一気に不安定化するはずだ。当然であるが、核武装の議論も出てくるため、核拡散の懸念も一気に拡大することになる。

また、欧米が伝家の宝刀であるSWIFTからの排除という大技を北朝鮮・イランのような国ではなく、ロシアという大国に行使した上で侵略行為を制止できなかった事実も残ることになる。これは欧米と対立する潜在的な可能性を持つ全ての国がロシアや中国による国際金融決済システムに協力する強い誘因を生み出すことになる。本来、このような大技は行使しないことに意味があり、欧米が受けるソフトパワーの減退は計り知れないものとなるだろう。

世界中で国家主体による紛争が頻発するようになり、欧米はそれらに十分に対応できず、既存の戦後秩序は崩壊していくことになる。したがって、ロシアの勝利は、ロシアが西欧との干渉国家を作るという単純なレベルの話ではなく、事実上戦後レジームの転換に結びつく事態を引き起こす歴史的な出来事となるだろう。

ウクライナがロシアの侵攻を跳ね返した場合

では、ウクライナがロシアの侵攻を跳ね返した場合はどうなるのか。日本は欧米側に立って対ロシア制裁に参加しているため、ウクライナの勝利は既存の世界秩序が継続するように錯覚しがちである。

しかし、大国であるロシアがウクライナに勝利できなかった事実は、ロシア国内でのプーチン大統領の地位を危ういものとするだろう。そして、それはそのままロシアにおける政情不安を誘発することも十分にあり得る。

仮にプーチン政権が倒れた場合、欧州地域からロシアの軍事的脅威は取り除かれることになる。そのため、それは米国のインド太平洋地域への軍事シフトを加速化させることになるように思える。ただし、物事はそれほど簡単には進まないかもしれない。

プロフィール

渡瀬 裕哉

国際政治アナリスト、早稲田大学招聘研究員
1981年生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。 機関投資家・ヘッジファンド等のプロフェッショナルな投資家向けの米国政治の講師として活躍。日米間のビジネスサポートに取り組み、米国共和党保守派と深い関係を有することからTokyo Tea Partyを創設。全米の保守派指導者が集うFREEPACにおいて日本人初の来賓となった。主な著作は『日本人の知らないトランプ再選のシナリオ』(産学社)、『トランプの黒幕 日本人が知らない共和党保守派の正体』(祥伝社)、『なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか』(すばる舎)、『メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本』(PHP新書)、『2020年大統領選挙後の世界と日本 ”トランプorバイデン”アメリカの選択』(すばる舎)

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

8月米卸売在庫横ばい、自動車などの耐久財が増加

ビジネス

10月米CPI発表取りやめ、11月分は12月18日

ビジネス

ミランFRB理事、12月に0.25%利下げ支持 ぎ

ワールド

欧州委、イタリアの買収規制に懸念表明 EU法違反の
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 3
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体制で世界の海洋秩序を塗り替えられる?
  • 4
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    ロシアのウクライナ侵攻、「地球規模の被害」を生ん…
  • 7
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 8
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    EUがロシアの凍結資産を使わない理由――ウクライナ勝…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story