コラム

トランプ前大統領の黄昏、連邦下院議員補欠選挙でまさかの逆転負け

2021年08月02日(月)16時10分

トランプの影響力の低下を天下に印象付けることになった...... REUTERS/Octavio Jones

<7月27日テキサス州第6区で連邦議会下院議員補欠選挙が実施されたが、トランプ前大統領にとっては、自らの影響力の低下を天下に印象付ける痛手となった>

2021年7月27日テキサス州第6区で連邦議会下院議員補欠選挙(特別選挙)の投開票が実施された。5月に同欠選挙が行われた際に共和党・民主党が濫立した結果として、得票数1位となった候補者が十分な有効得票数が得られなかった。そのため、今回の選挙では上位2者による決戦投票が行われる形となった。

7月の決選投票に残った2名、スーザン・ライトとジェイク・エルゼイのいずれも共和党員である。第1回補欠選挙ではトランプの熱狂的ファン候補者や民主党候補者なども存在していたが、堅固な政治的支持を固めた有力な共和党員2名が決選投票に生き残る順当な状況となっていた。

トランプ前大統領が推していたのはスーザン・ライトである。そもそも補欠選挙が行われることになった直接要因は、スーザンの夫である故ロン・ライト下院議員が新型コロナウイルスによって亡くなったことにある。いわば、スーザンは夫の弔い合戦としての出馬であり、故ロン・ライトの支持母体であったClub for Growthなどの一部の保守グループが強烈にプッシュする陣容であった。

勝ち馬に便乗するトランプ手法だったが......

トランプ前大統領は5月に行われた第1回投票ではギリギリまで自らの推薦候補者を決定せず、スーザン・ライトの1位抜けが世論調査上ほぼ確実になったところで支持表明を行った経緯がある。自らを熱烈に信奉するトランプ信者系候補者らを応援せず、最も戦況上有利な候補者を応援するやり方は、トランプ前大統領のビジネス感覚によるものだろう。彼が若かりし頃に発刊した自伝である『The Art Of Deal』の中で、彼が友人に助言した通りの勝ち馬に便乗する手法そのままであった。三つ子の魂百までである。

トランプ前大統領の推薦を得て資金力をつけたライトに対して、その対戦相手のジェイク・エルゼイは故ロン・ライトのライバルであり、共和党の候補者を決める予備選挙で同氏と争ってきたテキサス州議会議員だ。リック・ペリー前テキサス州知事を味方につけつつ、トランプ前大統領とはあからさまに敵対することなく距離を取る戦略を取ってきていた。ペリーと関係が深い伝統的なレーガン保守派も味方につけつつ、トランプに批判的な主流派からの支持を取り込む賢しいやり方を採用したと言える。その戦略が功を奏してエルゼイは急速に資金力をつけて広告費用で逆転し、7月の決選投票で世論調査上の不利を跳ね返し劇的な勝利を勝ち取ることになった。

トランプの影響力の低下を天下に印象付ける痛手

今回の補欠選挙(特別選挙)は共和党員だけでなく州有権者全体に開かれた選挙であり、共和党員の身内のみの選挙ではない。そのため、エルゼイには民主党支持者なども投票したものと想定される。しかし、5月の第1回補欠選挙の約半数の人々しか投票に参加していないこと、共和党が元々やや強い地域であることなどに鑑み、やはり多くの共和党支持者がライトではなくエルゼイを選択したと見るべきだろう。このことはテレラリー、録音による自動電話かけ、資金管理団体からの支援などで応援してきたトランプ前大統領にとっては、自らの影響力の低下を天下に印象付ける痛手となった。

プロフィール

渡瀬 裕哉

国際政治アナリスト、早稲田大学招聘研究員
1981年生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。 機関投資家・ヘッジファンド等のプロフェッショナルな投資家向けの米国政治の講師として活躍。日米間のビジネスサポートに取り組み、米国共和党保守派と深い関係を有することからTokyo Tea Partyを創設。全米の保守派指導者が集うFREEPACにおいて日本人初の来賓となった。主な著作は『日本人の知らないトランプ再選のシナリオ』(産学社)、『トランプの黒幕 日本人が知らない共和党保守派の正体』(祥伝社)、『なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか』(すばる舎)、『メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本』(PHP新書)、『2020年大統領選挙後の世界と日本 ”トランプorバイデン”アメリカの選択』(すばる舎)

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アルゼンチン大統領、改革支持訴え 中間選挙与党勝利

ワールド

メキシコ、米との交渉期限「数週間延長」 懸案解決に

ビジネス

米クアルコム、データセンター向けAIチップ発表 株

ワールド

ロシア、ウクライナ東部で攻勢 ドネツク州の要衝ポク
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大ショック...ネットでは「ラッキーでは?」の声
  • 3
    「平均47秒」ヒトの集中力は過去20年で半減以下になっていた...「脳が壊れた」説に専門家の見解は?
  • 4
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 5
    「信じられない...」レストランで泣いている女性の元…
  • 6
    中国のレアアース輸出規制の発動控え、大慌てになっ…
  • 7
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月2…
  • 8
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 9
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 10
    「死んだゴキブリの上に...」新居に引っ越してきた住…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 4
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 8
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 9
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 10
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 9
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story