コラム

国会で「議論」がない──アドリブで答弁できない政治家と批判しないマスコミの共犯関係

2023年02月09日(木)15時26分
西村カリン(ジャーナリスト)
国会

Kim Kyung Hoon-REUTERS

<「〇〇についてお尋ねがありました」という、聞き飽きた常套句。官僚が用意する答弁を読み上げるだけの「討論」。追及しないメディアにも責任がある>

1月25日から、衆議院の代表質問が始まった。興味があってオンラインで見たが、改めてがっかりしたし、完全に無駄な時間だと思った。なぜなら、効果が期待できる作業に全くなっていないから。

各党の代表は演説を読みながら、岸田首相にいくつかのトピックについて質問する。さまざまな問題や政策をめぐる各党の意見を聞く良い機会ではあるけれど、首相の回答にはがっかり。質問は事前に政府に通告されるから、回答は官僚たちが用意する。つまり首相はその文章を読み上げるだけだ。

ほぼ全ての代表が同じ項目について質問した。すなわち防衛費増額、賃上げ、原発政策、そして教育政策。結果的に、首相は「〇〇についてお尋ねがありました」という決まった表現で始め、それぞれの項目について何度も同じ回答を読み上げた。

しかも、ほとんどが既に記者会見などで発表されている内容で、新しい情報は何もない。首相の回答の後で質問者は追加質問や指摘ができないから、議論にもならない。

それでも、一部のマスコミは「議論が交わされた」というふうにこの代表質問を紹介した。議論や討論の意味は、問題を解決するために意見を論じたり、批判をし合ったりすることだと私は思う。代表質問は議論ではなく、一方的な演説にすぎない。

今のままだと、首相の代わりに文章を読み上げるロボットを使ってもあまり変わらないだろう。国会での首相や閣僚の無駄な時間は、結果的に国にとって時間の無駄になるだけでなく、お金の無駄にもなる。

インフレ、ウクライナ戦争、エネルギー問題、気候変動など、山ほどの深刻な問題に対応しないといけないときに、こんなに非効率的な政治作業はもう許されないと思う。

テーマごとに本格的な議論ができる仕組みが必要だ。しかし残念ながら、国会改革が近いうちに行われることは期待できない。政府にとっては、現在の状況が有利だからだ。

それでも、首相や閣僚は「議論」という単語をしばしば使い、「議論している」と強調する。

これは国会での議論よりも、有識者会議での議論を意味しているのかもしれない。有識者会議は便利だ。政府が選んだメンバーの間の議論であり、議事録は非公開にすることも可能なのだから。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

テスラ11月米販売台数が4年ぶり低水準、低価格タイ

ビジネス

米国株式市場=ダウ・S&P最高値更新、オラクル株急

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、FRBと他中銀の温度差に注

ワールド

トランプ氏「一段の利下げ望む」、前日のFRB決定歓
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキャリアアップの道
  • 2
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれなかった「ビートルズ」のメンバーは?
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 5
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 6
    受け入れ難い和平案、迫られる軍備拡張──ウクライナ…
  • 7
    「何これ」「気持ち悪い」ソファの下で繁殖する「謎…
  • 8
    ピットブルが乳児を襲う現場を警官が目撃...犠牲にな…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    「安全装置は全て破壊されていた...」監視役を失った…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 10
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story