短歌はなぜ現代の人々に愛されているのか?
GYRO PHOTOGRAPHY/GETTY IMAGES
<和歌を詠むことは、実はマインドフルネスでもあると思う。それが、今も短歌を詠む人が何十万人もいる理由の1つではないだろうか>
世界的に「マインドフルネス」が関心を集めている。
日々の心配事や不安な気持ち、他人からの評価など、つい頭に浮かんでしまうことを鎮め、より自分自身に集中できるよう精神状態を整えるためのものであり、その手法としてメディテーション(瞑想)などが用いられる。
マインドフルネスは仏教思想を元にアメリカで生み出されたが、特にこの数年、欧米では「Search Inside Yourself(SIY)」というその実践法を求める人が急増した。
日本などアジアにも逆輸入され、メディテーションを体験できるスタジオやプログラムが目につくようになった。
それだけ現代社会ではメンタルケアが大事になっているのだろう。特にコロナ禍で勤務環境が変化し、将来への不安が高まって、健全な精神状態を保つことが以前より難しくなっている気がする。
マインドフルネスはそもそも「自分の心を整える」「自分の精神状態を鍛える」ことにつながる話だが、日本文化にもマインドフルネスの可能性が内在しているのではないかと思う。
必ずしも、わざわざ特別なプログラムに参加してメディテーションをしてみなくてもいい。むしろなじみのある文化の中に、心を整える方法を見つけてみてはどうだろうか。
私は日本に来て9年ほど短歌を詠み続けているが、その中で感じているのは、短歌は伝統文学でありつつも、マインドフルネスのメソッドでもあるということ。もう少し具体的に話したい。
短歌は和歌の形式の1つで、5 7 5 7 7の31音で作る短い詩。1400年以上続いている日本の伝統文学として代表的な歌集に『記紀歌謡』や『万葉集』などがあるが、昔は宴や旅行のときに歌を詠むことや恋の歌を詠むことも人気を集めていた。
つまり、一部の特別な人だけの文学ではなく、時には誰かに想いを届けるための手紙として、また自分の日々を記録する日記のような存在としても、短歌は長く愛されてきたのだ。
1400年以上もの歴史があること自体、本当に素晴らしいことだと思う。しかも、あまり知られていないかもしれないが、日本には今も短歌を詠んでいる人が少なくとも数十万人いる。またSNSの中でも、文字数の制限があるツイッターでは現代短歌が人気を集めている。
なぜ短歌は現代の人々にこれほど愛されているのだろうか。
さまざまな理由があるだろうが、私は短歌を通じて自分の心を整えられるのが何よりもうれしい。
短歌は31文字の世界であるため、言葉の中で余計なものを削る作業をする。その後、本当に表現したい言葉だけを残す。だから私は短歌を「言葉の引き算」と呼ぶ。「足す」ことより「引く(削る)」ことを大事にする世界なのだ。
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