コラム

もう「安全な国」でなくなった日本が、若者を「自助」で追い詰める危険さ

2021年11月19日(金)17時18分
西村カリン
阻害される若者

FILADENDRON/ISTOCK

<電車内での無差別殺傷事件で治安が不安視されるようになった日本に、テロの恐怖を知るフランス人筆者が伝えたいこと>

「日本に住むのはどう?」。初めて会った日本人と雑談をすると、必ず出てくる質問だ。私はいつも「住みやすい国だよ。便利で安全だから」と答える。

パリで10年間暮らした私にとって、確かに東京は住みやすい大都市だ。パリをエッフェル塔の上から見ると圧倒的に奇麗だが、街を歩くと汚いところ、怖いと思うところ、不便なこと、あるいは危険だと思う場面が多すぎる。特に女性にとってはそうだ。

日本の治安の良さや電車の利便性などはやはり非常に魅力的だ。でも残念ながら、最近はこの国でも電車に乗ることへの不安を感じるようになった。特にまだ小さい息子たちと一緒にいるとき、私は100%安心はできない。みんなも同感だと思うが、無差別殺傷事件が数回起きているからだ。「死んでもいい」と思う犯罪者から自分の身を守るのは、ほぼ不可能だ。

私は1990年代にパリに住んでいたが、95年を中心に何度もテロ事件があって、その年だけでもRER(首都圏高速鉄道)で2回のテロがあった。爆弾やガスなどを使ったテロで、本当に怖かった。近年の日本でそうした方法によるテロはないが、刃物や液体など、誰でもどこでもいつでも買うことができる物によるテロが起きている。

事件が続く日本に伝えたいこと

総選挙の日に起きた京王線の車内での事件もそうだった。これから同じような事件が起きてもおかしくないと思うから、いくつか指摘しておきたい。

1. マスコミは、事件の容疑者の映像を繰り返し放送するのをやめてほしい。目にした大人も子供もトラウマになりやすい。しかもそれは容疑者が最も喜ぶことだ。事件の詳細もあまり説明しないほうがいい。簡単な方法であればあるほど、「私もやろう」と思う人が出てくる。

2. 現場で逃げる人々の映像は警察の捜査にとっては重要な材料だが、ニュースなどで放送しなくてもいいのではないか。そうした場面も、一部の人には悪影響を及ぼす可能性が高い。放送するなら「ショックを与える場面がある」と事前に警告すべきだ。

3. 事件に巻き込まれた人々への精神的サポートが必要だ。テロを何度も経験したフランスは、ケガの有無を問わず、現場にいた人々の精神的サポートに力を入れる。その面で、日本は遅れていると感じられる。

また、なぜそんな事件が起きたのか、どうやって防ぐことができるのかを国民一人一人が考えるべきだと思う。

なぜ希望を完全に失った20代の若者がいるのか。それを探ることが最重要課題だ。平和な時代の民主主義の国で、「仕事や人間関係がうまくいかない」から「死にたい」「死刑になりたい」などと言う人がいるのは、極めて大きな社会問題だ。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ政権、27年度国防予算の大幅増額要求 非国

ワールド

ロシア・トルコ首脳が電話会談、中東情勢について協議

ワールド

米戦闘機、イラン上空で撃墜 乗員1人救助との報道

ビジネス

米3月雇用者数17.8万人増、過去15カ月で最多 
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
2026年4月 7日号(3/31発売)

国際基準の情報開示や多様な認証制度──本当の「持続可能性」が問われる時代へ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ海峡封鎖と資源価格高騰が業績を押し上げ
  • 2
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐせ・ワースト1
  • 3
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始めた限界
  • 4
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 5
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅…
  • 6
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 7
    中国は「アカデミズムの支配」を狙っている? 学術誌…
  • 8
    血圧やコレステロール値より重要?死亡リスクを予測…
  • 9
    『ナイト・エージェント』主演ガブリエル・バッソが…
  • 10
    満を持して行われたトランプの演説は「期待外れ」...…
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 3
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引、インサイダー疑惑が市場に波紋
  • 4
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 5
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 6
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 7
    オランウータンに「15分間ロックオン」された女性のS…
  • 8
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 9
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反…
  • 10
    年金は何歳からもらうのが得? 男女で違う「最適な受…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story