コラム

消費者も店側も実施していることを知らない「還元サービス」の不思議

2021年08月04日(水)18時58分
トニー・ラズロ
デリバリー、テイクアウトOKのポスター

TONY LÁSZLÓ

<文京区が実施する飲食店支援の「消費者還元サービス」、なのに客も店員も市の職員も「知らない」とはどういうこと?>

ある日の夕方、「文京区でテイクアウトとデリバリーが安くなっている。今、42%引きの店まである」という情報を得た。ほぼ半額ではないか! どうやら、区が新型コロナウイルスの影響を受ける飲食店を支援しているようだ。既に夕飯の時間が迫っている。急いで現地へ自転車を飛ばした。

しかしギョーザ屋、焼き鳥屋、インド料理店、イタリアン、中華、居酒屋......。看板や献立を見ても割引の宣伝文句はどこにもない。何度か入ったことのある有名店で聞いてみると、「そんなの初耳だ」という。

それなら公共施設で聞こう。幸いその一、すぐ近くに区役所ビルがあった。幸いその二、遅い時間なのに総合窓口に係員がいた。でも不幸その一、係員の返事は、「知らない」。

もう何かを買わないといけない時間なので、その日は帰り道で弁当屋に寄って帰った。割引はなかった。

実は1~3月に次ぐ第2弾だった

翌日、少し調べてみることにした。すると、これは区内のテイクアウトおよびデリバリーの利用促進を目的にした制度だと分かった。そして驚いたことに、これは今年1~3月に次ぐ第2弾だった。なぜ飲食店も区役所ビルの人も知らなかったのか。不思議だ。

仕組みとしては、区内の飲食店がテイクアウトやデリバリー商品に割引などの特典を付ける消費者還元サービスを実施する際、経費(割引や特典額、容器代)を区が支援してくれるというもの。うまくいけばお店が儲かり、お客さんは節約でき、そして感染防止も果たせる。一石三鳥。

このサービスに参加している飲食店や物販店を紹介する区の特設サイト「文京ソコヂカラ」を見ると、「目的別から選ぶ」のページでテイクアウトやデリバリーをしている店を探せる。多様なジャンルの306店がヒットした。

さて、どんな割引サービスがあるのか調べようと、5つの店にメールを出してみた。そのうち無回答は3つ、「もうやっていない」が1つ。もう1つは、「(区が設置した)ページは店紹介であり、割引や特典の案内ではない」という。消費者還元サービスの中身を説明してくれたのは1店舗だけだった。

ここは、買い物額が1万円以上ならサラダのドレッシングを、2万円以上なら焼き肉のタレをおまけしてくれるという。ドレッシングとタレかぁ......。ちょっと趣旨から離れているように感じる。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

オランダ政府、ネクスペリアへの管理措置を停止 対中

ワールド

ウクライナに大規模夜間攻撃、19人死亡・66人負傷

ワールド

ウクライナに大規模夜間攻撃、19人死亡・66人負傷

ワールド

中国、日本産水産物を事実上輸入停止か 高市首相発言
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 4
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 5
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「これは侮辱だ」ディズニー、生成AI使用の「衝撃宣…
  • 9
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 10
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story