「三国志」は日本人も中国人も大好き(でも決定的な相違点がある)
HISAKO KAWASAKI-NEWSWEEK JAPAN
<日本人男性には「三国志」ファンが多い。中国でももちろん人気だ。しかし日中では人気の登場人物が違っていて、日本では聖人君子のように描かれ好まれている劉備は、中国では「情けない主君」なのだ>
コロナ禍の今、本や漫画の売り上げが好調だと聞く。読書に親しむ時間的余裕ができた人が多いのだろう。かく言う私も、ある漫画を何度も読み返している。「三国志」だ。
日本人、特に日本人男性には「三国志」ファンが多い。吉川英治の小説、横山光輝の漫画、1980年代のNHK人形劇、あるいは約10年前にテレビ東京で放映されていたアニメや各種のゲームなど、さまざまな媒体を通じて興味を持つようだ。ちなみに私は息子たちにアニメ版を全話見せた。
日本で長らく愛され続けている素晴らしいコンテンツ、「三国志」。元となっているのは中国の古典だ。
魏・呉・蜀の三国を中心に3世紀の群雄割拠の時代を記した歴史書の『三国志』と、それを基にした歴史小説の『三国演義(三国志通俗演義)』である。当然ながら、中国人なら誰もが知っており、中国人も「三国志」が大好きだ。
私は自宅に横山光輝の『三国志』全60巻と、中国の漫画である「連環画」の『三國演義』全60巻をそろえている。写真にあるように、連環画は日本の漫画よりサイズが小さく、各ページとも決まった大きさの挿絵と文で構成されている。
中国ではみんな、少年時代にこの連環画を通じて「三国志」と出合う。私も子供の頃、近所の新華書店(国営の書店)で1年かけて全巻を買いそろえた。そしてこの連環画「三国志」、今も飛ぶように売れている。
つまり「三国志」は日本人と中国人の共通の趣味であり、この話題であれば楽しく語り合えるのだ。ということは、日中関係改善の糸口にもなり得るのだろうか?
私は以前、ある日本人の三国志ファンと有名な「酒を煮て英雄を論ず」の場面について話をしていて困ったことがあった。曹操孟徳に「今の世では、私と君こそが英雄と呼ばれるにふさわしい!」と言われた劉備玄徳が、慌てて手に持っていた箸を落としてしまうのだが、その日本人が私にこう質問した。
「劉備は右利き? それとも左利き?」
そんなのどっちだっていいじゃん! 日本には三国志検定なる検定試験まであったらしいが、おそらく私は合格できないだろう。日本のファンにはそれだけマニアックな人が多いのだ。三国志愛のなせる業だろうが、中国人にはいささか刺激が強い。
日中の三国志ファンには、ほかにも相違点がある。人気の登場人物だ。