コラム

「三国志」は日本人も中国人も大好き(でも決定的な相違点がある)

2021年07月23日(金)17時30分
周 来友(しゅう・らいゆう)
横山光輝『三国志』、「連環画」の『三國演義』

HISAKO KAWASAKI-NEWSWEEK JAPAN

<日本人男性には「三国志」ファンが多い。中国でももちろん人気だ。しかし日中では人気の登場人物が違っていて、日本では聖人君子のように描かれ好まれている劉備は、中国では「情けない主君」なのだ>

コロナ禍の今、本や漫画の売り上げが好調だと聞く。読書に親しむ時間的余裕ができた人が多いのだろう。かく言う私も、ある漫画を何度も読み返している。「三国志」だ。

日本人、特に日本人男性には「三国志」ファンが多い。吉川英治の小説、横山光輝の漫画、1980年代のNHK人形劇、あるいは約10年前にテレビ東京で放映されていたアニメや各種のゲームなど、さまざまな媒体を通じて興味を持つようだ。ちなみに私は息子たちにアニメ版を全話見せた。

日本で長らく愛され続けている素晴らしいコンテンツ、「三国志」。元となっているのは中国の古典だ。

魏・呉・蜀の三国を中心に3世紀の群雄割拠の時代を記した歴史書の『三国志』と、それを基にした歴史小説の『三国演義(三国志通俗演義)』である。当然ながら、中国人なら誰もが知っており、中国人も「三国志」が大好きだ。

私は自宅に横山光輝の『三国志』全60巻と、中国の漫画である「連環画」の『三國演義』全60巻をそろえている。写真にあるように、連環画は日本の漫画よりサイズが小さく、各ページとも決まった大きさの挿絵と文で構成されている。

中国ではみんな、少年時代にこの連環画を通じて「三国志」と出合う。私も子供の頃、近所の新華書店(国営の書店)で1年かけて全巻を買いそろえた。そしてこの連環画「三国志」、今も飛ぶように売れている。

つまり「三国志」は日本人と中国人の共通の趣味であり、この話題であれば楽しく語り合えるのだ。ということは、日中関係改善の糸口にもなり得るのだろうか?

私は以前、ある日本人の三国志ファンと有名な「酒を煮て英雄を論ず」の場面について話をしていて困ったことがあった。曹操孟徳に「今の世では、私と君こそが英雄と呼ばれるにふさわしい!」と言われた劉備玄徳が、慌てて手に持っていた箸を落としてしまうのだが、その日本人が私にこう質問した。

「劉備は右利き? それとも左利き?」

そんなのどっちだっていいじゃん! 日本には三国志検定なる検定試験まであったらしいが、おそらく私は合格できないだろう。日本のファンにはそれだけマニアックな人が多いのだ。三国志愛のなせる業だろうが、中国人にはいささか刺激が強い。

日中の三国志ファンには、ほかにも相違点がある。人気の登場人物だ。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰

ワールド

トランプ氏、安保副補佐官に元北朝鮮担当ウォン氏を起

ワールド

トランプ氏、ウクライナ戦争終結へ特使検討、グレネル

ビジネス

米財務長官にベッセント氏、不透明感払拭で国債回復に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 6
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 7
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story