コラム

オンライン化のスピード感に欠ける、東京の「生ぬるい」公教育

2020年05月29日(金)15時40分
李 娜兀(リ・ナオル)

新型コロナをきっかけに世界各国でオンライン授業が導入されているのに(写真はスペインのオンライン授業の様子) Albert Gea-REUTERS

<ブロードバンドの普及率は低くなく、言わずと知れたゲーム大国の日本でオンライン授業が遅々として進まないのはなぜ? 都内で小学生を育てる母親の不安>

最近、わが家では午前中、うかつにくしゃみもできない日々が続いている。長女が自室でオンライン授業に取り組んでいるからだ。廊下で夫が大きなくしゃみをしたところ、ちょうど英語の授業中で、先生から「Bless you」と言われ、娘はちょっと恥ずかしかったらしい。語学の授業中は家族全員、静かにしてほしいと訴えてきた。

それはともかく、長女が通う私立高校で4月上旬に始まったこのオンライン授業は、なかなか順調だ。先生たちは春休み期間中、大変なご苦労だったと思う。でも昼食時に家族4人が顔を合わせながら、娘が授業で学んだ冤罪やジェンダー格差をめぐるトピックについて意見を交わすのは、娘の成長ぶりも分かってかなり楽しい。

一方で心配なのは、東京都内の区立小学校に通う次女のほうだ。若干の宿題は出され、都教育委員会などがサイトに載せているデジタル問題集などの案内はあったが、基本的にはそれだけだ。長女と比較してしまうせいかもしれないが、ほとんど学校から放置されている感じすらする。不安になったので次女の友達に紹介され、4月からはタブレットを利用する通信教育を契約した。

ところで、新型コロナウイルス感染拡大で休校が続くのは世界共通。他の国はどうだろう、と米テネシー州に住む娘のいとこたちに聞くと、彼女たちの小学校は1日2時間のオンライン授業を進めているということだった。

韓国の首都ソウルで公立小学校の教員を務める友人にも連絡してみた。友人は毎日のオンライン授業の準備でパニック状態だった。授業の方式は先生たちに委ねられており、ビデオ会議システムやYouTubeを四苦八苦しながら活用しているらしい。「20代の若い先生たちは簡単にこなすけど、私たちは大変よ」。40代後半の友人はため息をつく。パソコンを持たない生徒には学校が貸し出し、家庭にブロードバンド環境がない生徒は登校して学校の設備を利用できるようにし、とにかく授業をスタートしたそうだ。

これを考えると東京の公立学校の状況は少し生ぬるい気がして仕方がない。そう考えていたときに小池百合子都知事が「混乱が生じているときこそ社会変化のチャンス」と9月入学を推進するテレビのニュースが目に入り、「これからさらに数カ月、放置状態が続くのだろうか」とますます困惑してしまった。学校が再開できないなら、せめてオンライン授業でもと考えているときに、「9月まで、もっとのんびり、ゆっくりやります」という話に聞こえたからだ。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

北朝鮮の金総書記、今後5年のミサイル開発継続を示唆

ワールド

ブラジル大統領選、ボルソナロ氏が長男出馬を支持 病

ワールド

ウクライナ大統領、和平巡り米特使らと協議 「新たな

ワールド

プーチン大統領、トランプ氏にクリスマスメッセージ=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 5
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 8
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    【銘柄】「Switch 2」好調の任天堂にまさかの暗雲...…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 5
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 6
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 7
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 10
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story