朴大統領失職後の韓国と蔓延する「誤った経済思想」
だが、この産業政策=開発主義は、キャッチアップの時代をすぎるとシステムが金属疲労をおこすようになる。より一段高い経済成長を目指す時にこの「韓国型一元的政府企業関係」は、システムエラーをおこし、韓国経済を停滞させてしまった。これを「開発主義のわな」(池尾和人)と呼称している。
このような「開発主義のわな」的なイメージは、現在の大統領と財閥グループの長との依存関係を、旧制度あるいは構造的問題としてとらえる世論と実に親和的である。そのため筆者は、これを「韓国版の構造改革ブーム」と見立てている。日本でも「敵対勢力」(郵政や道路公団など)を、長期停滞の原因として社会的に糾弾した小泉内閣時代を想起させるものだ。
日本の「失われた20年」と同じ現象
だが、韓国の経済的な停滞は、このような経済システム論的な「開発主義のわな」ではないと、筆者は考えている。むしろ韓国の社会が、このような構造改革をすすめても経済停滞から回復することは難しいだろう。むしろ停滞の真因から目がそらされ、さらに政治的・安全保障的なリスクも高まることで、韓国社会と経済はさらに混迷に陥るのではないか、と懸念している。
韓国経済の停滞の真因は、「開発主義のわな」という構造的なものではなく、むしろ総需要の持続的な不足にこそその原因がある。これは実は日本の「失われた20年」と同じ現象である。
韓国経済は朴槿恵政権になってから現在まで、一貫して「デフレ経済」の中にある。中央銀行である韓国銀行はインフレ目標政策を採用し、2016〜2018年の3年間の物価安定目標を年率2%に定めている。ただし、それ以前の2013〜2015年のインフレ目標は2.5〜3.5%に設定されていた。朴政権が誕生してからは、その目標域からも逸脱し、デフレが懸念される状況が続いていた。
直近のデータでは、消費者物価指数の対前年比が総合、農産物や石油関連を除外したコア消費者物価指数ともに0.3%と事実上のデフレ域に落ち込んでいる。特に朴政権の政治スキャンダルが発生してからはデフレ経済が加速化している。対して、韓国銀行の金融政策のスタンスは抑制気味であり、そのため経済成長率も大幅にダウンしている。
この韓国の事実上の非緩和スタンスのため、為替レート市場ではウォン高が進行してしまった。ウォン高の長期持続は、韓国の代表的な企業の「国際競争力」を著しく低下させてきた。韓国経済の雇用と物価のバランスをみると、韓国経済が「完全雇用」もしくは経済の安定化を維持するには、インフレ率でみると少なくとも2%台後半、できれば3%台前半を維持しているのが望ましい。
非緩和的な金融政策のスタンスと大胆な財政政策をとれなかったため、インフレ目標を達成できていなかった。政治的スキャンダルはさらに政策対応を遅らせ、韓国は本格的なデフレ経済に陥りそうである。
だが、韓国の世論、マスコミ、政策担当者には、「開発主義のわな」的な構造問題説が一大ブームである。望ましい金融政策と財政政策の採用よりも、既存のシステム叩きこそが経済を立ち直らせると信じてやまないようだ。この状況が続くかぎり、韓国経済の立ち直りは難しいだろう。だが、問題は韓国だけでとどまらない。
どれだけ政治や財閥を叩いても経済状況がよくならなければ、韓国の政治は伝統的に日本などへの政治的批判を強めてきた歴史がある。つまり世論の不満を対外にむけるのだ。今後誕生する政権次第では、そのはけ口は、日本だけではなく、米国も含まれる可能性がある。そうなればさらに朝鮮半島は周辺国も巻き込み大きく不安定化するだろう。
構造問題説という「誤った経済思想」の罪は重い。
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