コラム

電気自動車への移行を加速させるドイツ──EV革命のリーダーは、ドイツと中国に絞られてきた

2021年04月06日(火)16時00分

日常生活における充電

現状、都市や郊外にはガソリンスタンドは多くあるが、EV用の充電ステーションは厄介な検索でしか見つけられないことが多く、ドイツ連邦政府はEV普及のアキレス腱を認識し、世界に先駆けて充電インフラの一大整備に取り組むことを決めた。

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2021年1月1日現在、ドイツのEVの登録台数は約309,100台で、ドイツ全土での充電ステーションの数は、2021年第1四半期で約2万2千ある。写真はベルリン市内に設置された街灯型の急速充電スポット。

ドイツの運輸・デジタルインフラ大臣アンドレアス・ショイアーは、現在、充電問題に積極的に取り組む姿勢を強調し、「地域の充電インフラ」をモットーに、新しい連邦資金調達政策をベルリンで発表した。この発表日は、VWがVoltswagenというジョークを発したのと同じ、3月30日だった。

新しい政策は、スーパーマーケット、ホテル、レストラン、スポーツ施設などの駐車場に充電ステーションの建設を促進することを目的としている。特に自分の充電ステーションを持たない人々は、日常生活の中でEVバッテリーの充電が必須である。連邦政府の声明によると、EVの登録数の急増に対応し、この措置のためにすでに3億ユーロ(約390億5千万円)が投資されている。

新たな政策は、既存の資金調達プログラム「完全充電インフラストラクチャ・システム」を補完するため、連邦政府はさらに10億ユーロ(約1,301億7千万円)の投資を決めた。これらは、企業の事業用車両の充電ステーションと商用充電設備の拡張を促進する計画である。

コロナ禍での支援

連邦政府は、充電オプションの拡張に加えて、コロナ・パンデミックの影響を受けた企業を支援することだと表明している。新たな支援策は、中小企業と地方自治体の企業のみが資金提供の対象となる。ホテル、レストラン、小売業者は、独自の充電ステーションを設置することで、費用対効果の高い方法で施設の魅力を高め、将来的にはより多くの顧客を引き付けることができると見込んでいる。

連邦政府は拡張費用の最大80%を負担するが、いくつかの条件を付けている。充電ステーションは再生可能エネルギーからの電力で運用する必要があり、ステーションは契約ベースの充電、ローミング、および臨時充電をサポートし、2022年12月31日までに運用可能である必要がある。

新しい資金調達プログラムにより、中小企業は4月12日から年末までに資金を申請することができる。特に、小売業、ホテルおよびレストラン業界、ならびに小規模な地方自治体や公益事業も申請書を提出するよう求められている。投資コストの最大80%は、「先着順」の手順で承認される。

これまでドイツ政府は、2017年から2020年にかけて30,000を超える通常および急速充電ポイントに資金を提供してきた。新たな充電インフラ資金調達プログラムの予算は、5億ユーロ(約650億9千万円)である。

急速充電法とドイツ政府の本気

ベルリンのドイツ連邦議会は、EVの充電環境を整備するための「急速充電法」を可決し、全国のニーズに基づいたプログラムとして、ドイツ全土に1,000拠点の急速充電ネットワークの基盤を推進することを決めた。これらの活動はすべて、国立充電管理センターが管轄しており、その責任者ヨハネス・パラッシュは次のように述べている。

「EVの登録数が急増しているため、どこでも簡単に充電できるようにする充電ステーションの設置を早めることが急務となっています。新しい資金調達プログラムは、包括的でユーザーフレンドリーな全体的なシステムを構築する上で、地方自治体と中小企業の重要性を強調しています。彼らは地域のニーズを認識しており、現場でのEVの受け入れにとって重要です」

拡大し続ける将来の電力需要にいかに対処できるのかという最大の課題を前提として、EVの急増、充電ステーションの整備と、ドイツの基幹産業は内燃エンジンから電気モーターへと急速にシフトにしている。

EVの充電は、携帯電話のように簡単となり、充電ポイントの支払いも、統一ルールが整備される必要がある。急速充電ステーションのインフラ整備は、ドイツの基幹産業のアップグレードに不可欠な取り組みとなる。

プロフィール

武邑光裕

メディア美学者、「武邑塾」塾長。Center for the Study of Digital Lifeフェロー。日本大学芸術学部、京都造形芸術大学、東京大学大学院、札幌市立大学で教授職を歴任。インターネットの黎明期から現代のソーシャルメディア、AIにいたるまで、デジタル社会環境を研究。2013年より武邑塾を主宰。著書『記憶のゆくたて―デジタル・アーカイヴの文化経済』(東京大学出版会)で、第19回電気通信普及財団テレコム社会科学賞を受賞。このほか『さよならインターネット GDPRはネットとデータをどう変えるのか』(ダイヤモンド社)、『ベルリン・都市・未来』(太田出版)などがある。新著は『プライバシー・パラドックス データ監視社会と「わたし」の再発明』(黒鳥社)。現在ベルリン在住。

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