コラム

電気自動車への移行を加速させるドイツ──EV革命のリーダーは、ドイツと中国に絞られてきた

2021年04月06日(火)16時00分

VWの主力EVであるID.3と大規模充電ステーション ©Volkswagen

<EVでも世界を制覇する野望を抱いているドイツ。EVの急増、充電ステーションの整備と、ドイツの基幹産業は内燃エンジンから電気モーターへと急速にシフトにしている...... >

燃焼エンジンから電気モーターへ

3月30日、ドイツの大手自動車メーカーであるフォルクスワーゲン(Volkswagen:VW)は、電気自動車(Electric Vehicle:EV)への積極的な関与を示すために、社名をヴォルツワーゲン(Voltswagen)に変更するとツイートした。電圧の意味であるVoltsを冠した"Voltswagen"は、エイプリルフールを意識したジョークだった。しかし、このジョークに世界は激しく反応した。VWのプレスリリースを信じた大手メディアからは、許しがたい暴挙だとする厳しい批判もあった。

さらに、これまでの内燃エンジン車に乗るユーザーからの批判、環境問題や気候変動への安易な姿勢を批判する者、そもそもEVのための電力供給は持続可能なのか? 「市民(Volks)のクルマ(wagen)」から「電気(Volts)のクルマ(wagen)」への一方的なブランド変更劇の背景には、ドイツ政府によるEV支援の強い意志が反映されていた。

VWは、世界の混乱を鎮めるために、翌日、次のようにツィートした。「エイプリルフールのつもりが、世界中で話題になりました。人々は、電気自動車の未来と同様に、フォルクスワーゲンの伝統にも情熱を持っていることがわかりました」

VWがEVに集中するというメッセージは、現在進行中のより大きなストーリーを表現するものだった。つまり、米国のテスラはEV市場のパイオニアだったが、業界は現在、体系的な移行を加速させている。その中心が、レガシーメーカーを先導しているVWである。

takemura0406_3.jpg

欧州におけるEVの主力車となったVWのID.3。静かでパワフルな長距離走行を実現し、価格も手頃となった。©Volkswagen

2020年12月、VWのID.3は、28,108台の新規登録でヨーロッパのトップランナーとなり、EVの年間売上全体では、ルノーのゾエ(ZOE)、テスラのモデル3に次いで3位になった。VWは2020年にヨーロッパのEV市場のシェアを25%に増やしたが、テスラは13%に落ち込んだ。VWのCEO、ヘルベルト・ディースは、2025年までにVWがEV販売でテスラを追い抜くと宣言している。

プロフィール

武邑光裕

メディア美学者、「武邑塾」塾長。Center for the Study of Digital Lifeフェロー。日本大学芸術学部、京都造形芸術大学、東京大学大学院、札幌市立大学で教授職を歴任。インターネットの黎明期から現代のソーシャルメディア、AIにいたるまで、デジタル社会環境を研究。2013年より武邑塾を主宰。著書『記憶のゆくたて―デジタル・アーカイヴの文化経済』(東京大学出版会)で、第19回電気通信普及財団テレコム社会科学賞を受賞。このほか『さよならインターネット GDPRはネットとデータをどう変えるのか』(ダイヤモンド社)、『ベルリン・都市・未来』(太田出版)などがある。新著は『プライバシー・パラドックス データ監視社会と「わたし」の再発明』(黒鳥社)。現在ベルリン在住。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

EU・仏・独が米を非難、元欧州委員らへのビザ発給禁

ビジネス

中国人民銀、為替の安定と緩和的金融政策の維持を強調

ビジネス

米新規失業保険申請件数、1万件減の21.4万件 継

ワールド

ウクライナ和平の米提案をプーチン氏に説明、近く立場
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 5
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 6
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 7
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 8
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 9
    【投資信託】オルカンだけでいいの? 2025年の人気ラ…
  • 10
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 4
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 7
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 8
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story