コラム

パンデミックが促した欧州グリーン政策とベルリン生まれの検索エンジン「エコジア」

2020年06月10日(水)18時30分

今後10年間で、欧州各地に30億本の木を植えることを発表

ところで、新型コロナウィルスによるパンデミックが、社会に与えた影響は甚大である。ここ欧州では、数ヶ月前の「通常」に戻るのではなく、社会はあらゆる意味で「正常」になるべきとの意見が多い。私たちの「通常」の生活の累積が、地球規模の気候変動をもたらしてきた。今こそ無関心の眠りから醒めて、後世の世代のためにも温暖化への本格的な取り組みを加速させる時だとの認識は、コロナ時代の重要な転機である。

この5月、欧州連合は今後10年間で、加盟国各地に30億本の木を植えることを発表した。これは、世界中の100万種が絶滅の危機に瀕しており、生物多様性の損失が将来のパンデミックを脅かしている今、大陸の自然を保護するという大きな取り組みのひとつとなる。

欧州グリーンディールとベルリンのグリーン・スタートアップ

欧州委員会は、欧州グリーンディールの一環として、植樹とともに、地域の自然の豊かさを保護するための対策も含めている。これには、化学農薬の使用を削減する取り組みや、現在、数が激減している蜂などの重要な花粉媒介者の保護も含まれている。

森林は重要な役割を果たしている。たとえば、アイルランドでは、森林地帯の約90%が失われ、2018年の調査では、ヨーロッパの森林の少なくとも半分が過去6,000年間で消失したことが確認された。森林再生は、生態系の本来の機能を取り戻す大きな機会となる。欧州では、気温が上昇するにつれて、植林が不可欠となっている。これは、生物多様性のためだけでなく、都市の涼しさを維持するための基盤でもある。

まだ存在している森林を保護するとともに、より多くの木を復活させることは、野生生物の回復にも役立つ。放棄されたチェルノブイリ周辺地域の森林再生を見ると、その地域に急速に戻ってきた野生生物の多様性は驚くべきことだった。重要な生物多様性が欠如している欧州の一部の地域では、いくつかの主要な修復作業により、鳥、昆虫、哺乳類などの野生生物が豊富となり、より健康的なシステムになることが期待されている。

自然の生物多様性の観点からの次のステップは、欧州連合が正式な戦略を制定し、加盟各国が年間200億ユーロの予算に基づいて、自然の回復と保護が行われる具体的な地域について計画を立てることである。この計画を主導するのは、パリやロンドンでもなく、「後なる者が先に立つ」ベルリンのグリーン・スタートアップであることは間違いない。

プロフィール

武邑光裕

メディア美学者、「武邑塾」塾長。Center for the Study of Digital Lifeフェロー。日本大学芸術学部、京都造形芸術大学、東京大学大学院、札幌市立大学で教授職を歴任。インターネットの黎明期から現代のソーシャルメディア、AIにいたるまで、デジタル社会環境を研究。2013年より武邑塾を主宰。著書『記憶のゆくたて―デジタル・アーカイヴの文化経済』(東京大学出版会)で、第19回電気通信普及財団テレコム社会科学賞を受賞。このほか『さよならインターネット GDPRはネットとデータをどう変えるのか』(ダイヤモンド社)、『ベルリン・都市・未来』(太田出版)などがある。新著は『プライバシー・パラドックス データ監視社会と「わたし」の再発明』(黒鳥社)。現在ベルリン在住。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

EU・仏・独が米国非難、元欧州委員らへのビザ発給禁

ワールド

ウクライナ和平の米提案をプーチン氏に説明、近く立場

ワールド

パキスタン国際航空、地元企業連合が落札 来年4月か

ビジネス

中国、外資優遇の対象拡大 先進製造業やハイテクなど
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 2
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 3
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これまでで最も希望が持てる」
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 6
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 7
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 8
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 9
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 10
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 9
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story