最新記事
中国海軍

中国海軍が台湾と与那国島の間を頻繁に航行する新たな作戦意図

Worrisome New Trends

2024年10月1日(火)13時39分
馬振坤(マー・チョンクン、国防大学〔台湾〕教授・中国防衛問題プロジェクトディレクター)、K・トリスタン・タン(同プロジェクト研究助手)

第3に、海洋調査船は台湾の海岸線に徐々に接近している。台湾の接続水域に入った事例は23年は5件で全体の27.8%だったが、2024年は既に11件で全体の68.8%。この11件のうち6件が与那国島の西側の海峡で発生している。

第4に、2024年に海洋調査船は台湾と与那国島の間の海域で「芝刈りパターン」を3回、見せている。細かく往復を繰り返すこの動きは、入念な調査をしていると考えられる。


3つ目の傾向は与那国島の南の海域に関係する。

台湾国防部によれば、2024年に入って台湾の東側では中国の艦載対潜水艦ヘリの活動が増えた。台湾周辺で対潜ヘリの活動が確認された日数は2023年は90日だったが、今年は8月末の時点で68日だ。

最南端の鵝鑾鼻(ガランピ)からフィリピン最北端ヤミ島に至る南西空域では2023年は33日で、今年は19日。ところが台湾北東部の蘇澳および与那国島より南の海域では、2023年は59日だったのが今年は既に62日を記録している。

海洋調査船の傾向と合わせて考えるなら、中国は明らかに与那国島周辺で対潜能力を高めている。裏には浙江省に配備した通常動力型潜水艦の活動をこの海域で強化する狙いがあると考えられる。

今こそ日台連携強化を

3つの傾向からはまた、与那国島の東西の海域で将来的に空母の航行を増やしたい中国の思惑が浮かび上がる。

日本近海で活動する中国の空母とこれに随行する原子力潜水艦は、主に山東省青島が拠点。そのため与那国島周辺の海洋調査と対潜水艦作戦の強化は欠かせない。海域に関する知識不足のせいで他国の潜水艦に追跡されるような事態は、避けたいからだ。

これらの傾向は日本のみならずアメリカや台湾の政策にも影響を及ぼす。まず中国は対米防衛線「第1列島線」に沿って日米が設置した海中監視網をかいくぐって西太平洋に出る動きを、一層強めるかもしれない。

日米が南西諸島に海中監視システムを確立したことを示す報告はあるが、与那国島の西側の海峡に関しては信頼に足る報告がない。この海域は日台の管轄下にあり、両者は正式な軍事同盟を結んでいない。そのため共同で長期的に海中監視システムを運営するのは困難かもしれない。

中国はこの隙を突き、日米の対潜能力が強い第1列島線を避けることで、探知されずに西太平洋に進出する可能性を高めようとするだろう。台湾と与那国島の海域調査に力を入れ、対潜ヘリの出動を増やしてきたのはそのためだ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ホンジュラス前大統領釈放、トランプ氏が恩赦 麻薬密

ワールド

プーチン氏と米特使の会談終了、「生産的」とロシア高

ワールド

米ブラジル首脳が電話会談、貿易や犯罪組織対策など協

ビジネス

NY外為市場=ドル対円で上昇、次期FRB議長人事観
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大気質指数200超え!テヘランのスモッグは「殺人レベル」、最悪の環境危機の原因とは?
  • 2
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が猛追
  • 3
    若者から中高年まで ── 韓国を襲う「自殺の連鎖」が止まらない
  • 4
    海底ケーブルを守れ──NATOが導入する新型水中ドロー…
  • 5
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 6
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯…
  • 7
    もう無茶苦茶...トランプ政権下で行われた「シャーロ…
  • 8
    22歳女教師、13歳の生徒に「わいせつコンテンツ」送…
  • 9
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 10
    【香港高層ビル火災】脱出は至難の技、避難経路を階…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中