最新記事
中国海軍

中国海軍が台湾と与那国島の間を頻繁に航行する新たな作戦意図

Worrisome New Trends

2024年10月1日(火)13時39分
馬振坤(マー・チョンクン、国防大学〔台湾〕教授・中国防衛問題プロジェクトディレクター)、K・トリスタン・タン(同プロジェクト研究助手)
中国空母「遼寧」

9月に与那国島と西表島の間の接続水域を通過した「遼寧」(2018年4月) REUTERS

<与那国島と台湾の周辺で中国海軍の活動が活発に。軍事同盟がない日台の空白を突く「深謀遠慮」>

9月18日、中国海軍の空母「遼寧」とミサイル駆逐艦2隻が沖縄県の与那国島と西表島の間の接続水域を通過した。8月に入り中国軍の挑発行為が続いており、情報収集機が長崎県男女群島沖で領空を侵犯し、鹿児島県屋久島周辺で測量艦が領海に侵入した。

遼寧の戦略的価値や今回の航行の政治的な意味はもちろん重要だ。一方で、与那国島周辺の3つの重要な軍事的傾向は長く見過ごされてきた。


1つ目の傾向は、与那国島周辺海域での中国の軍事活動に関わるものだ。これまで中国海軍は主に、宮古島と沖縄本島の間の宮古海峡を通ってフィリピン海に向かっていた。しかし近年は、与那国島周辺を通過する作戦行動を拡大しており、島の西側と台湾東部の宜蘭の間の海峡を通過する頻度が大幅に増えている。

日本の防衛省によると、2018~2023年に日本の南西諸島周辺を航行した中国海軍艦艇のうち、宮古海峡を通過した艦艇は全体の54.8~100%だったが、今年は8月31日現在で43%にとどまっている。

一方で、与那国島の東側と西側の海域を通過する艦艇が全体に占める割合は、2020年以前の0%から今年は既に26.6%に達している。重要なのは、西側の通過が2020年のゼロから今年は18回に増えていることで、その全てが駆逐艦やフリゲート艦など主要な戦闘艦である。

中国政府は、日本が南西諸島で電子戦と技術偵察の能力を強化していることを十分に認識している。電子信号を探知されるリスクがあっても航行の頻度が増えていることから、中国がこの海峡を実戦訓練の重要地域に指定している可能性がうかがえる。

中国海洋調査船の動き

2つ目の傾向は、中国の海洋調査船の活動に関連する。台湾周辺における海洋調査船の動きについて、一般公開されているAIS(船舶自動識別装置)のデータを台湾の中国防衛問題プロジェクトが分析したところ、2023年と2024年(1月~8月31日)を比較して4つの特徴が見られた。

第1に、中国の海洋調査船の活動は増加している。2023年に台湾周辺を航行したのは18回だったが、2024年は8月末で既に16回に達している。

第2に、活動の重点は台湾南部の海域から東部の海域に移っている。2023年に台湾南部とフィリピン北部の間のバシー海峡付近を航行したのは11回で、台湾周辺海域全体の61.1%を占めていたが、2024年は5回で31.3%だ。

一方、与那国島の西側の海峡の航行は23年は2回で全体の11.1%だが、24年は10回で62.5%に増えている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシア、EUが凍結資産を接収すれば「痛みを伴う対応

ビジネス

英国フルタイム賃金の伸び4.3%、コロナ禍後で最低

ビジネス

ユニリーバ、第3四半期売上高が予想上回る 北米でヘ

ワールド

「トランプ氏は政敵を標的」と過半数認識、分断懸念も
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺している動物は?
  • 3
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシアに続くのは意外な「あの国」!?
  • 4
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 7
    ハーバードで白熱する楽天の社内公用語英語化をめぐ…
  • 8
    汚物をまき散らすトランプに『トップガン』のミュー…
  • 9
    国立大卒業生の外資への就職、その背景にある日本の…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 5
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 6
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 7
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 8
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 9
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 10
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中