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1800年ぶりの「諸葛丞相」誕生に『三国志』ファンが沸く...中国共産党の未来は「超サラブレッド」諸葛氏が担う?

2024年10月4日(金)09時20分
安田峰俊(紀実作家・立命館大学人文科学研究所客員協力研究員)
諸葛亮『蜀漢四英』

諸葛亮は左から2番目 四川省にある『蜀漢四英』像 beibaoke-shutterstock

<諸葛議員と愛新覚羅議員がともに市政を論じる奇観も...。現代中国は嫌いでも、日本人が萌えてしまう現代中国政治について>

最新の内閣府の世論調査で国民の約9割が「中国に親しみを感じない」と回答するなど、現代日本人は中国が「嫌い」だ。しかし、『キングダム』や『パリピ孔明』など中国史が題材のエンタメは大人気。その筆頭格が『三国志』で、日本人には古くから中国史への多大なるリスペクトがある。

中国の社会の底流には今も歴史が流れ続けており、習近平も演説に古典を引用し続けている。現代の中国社会と中国共産党は、自国の歴史をどう見ているのか? 令和日本の中国報道の第一人者・安田峰俊による話題書『中国ぎらいのための中国史』(PHP新書)の「第一章 奇書」より一部抜粋。


 

明日の中国共産党は諸葛氏が担う?

中国の指導者である習近平は、現時点では明確に後継者を定めていない。 2022年10月に開かれた第20回党大会の幹部人事を見ても、高級幹部である党中央委員205人に「10年後も働ける」世代はほとんど含まれていなかった。習近平の手足として働く現在の中央委員たちは、多くが60歳以上である。

とはいえ、彼らもやがては年を取り、世代交代の時期を迎えざるを得ない。今後、次世代のホープとなりうる1970年代生まれ(七〇後)の中央候補委員の幹部たちには、何人かの注目株もいる。

たとえば、貴州省党委(共産党委員会)副書記の時光輝、昆明市党委書記の劉洪建、済南市党委書記の劉強......などの面々なのだが、彼ら七〇後幹部のなかでも、ひときわ目立つ人物がいる。

その名は諸葛宇傑。2022年3月、この世代としては初めて、省クラスの行政機関でナンバー3のポストである上海市党委副書記の座を射止めた人物だ(現在は湖北省党委副書記)。同年11月1日付の『ウォールストリート・ジャーナル』の記事でも、習近平の後継者になりうる次世代の5人の指導者候補の1人として名が挙げられた。

【関連写真】諸葛宇傑氏 を見る

一見してわかるように、諸葛宇傑は現代の中国人には珍しい複姓(漢字2文字以上の姓)の持ち主である。しかも、三国志で有名な蜀の丞相・諸葛亮(諸葛孔明)と同姓だ。

中国側の公開情報によると、諸葛宇傑は1971年5月生まれで上海出身。40代までは港湾に関係する国有企業に身を置き、社内の党組織の幹部として働いてきた。2010年代後半から上海市党委に移り、当時の市党委のトップであった韓正(現国家副主席)や李強(党内序列二位、総理)に秘書として仕えた。

中国共産党では〝大物〟の上司に気に入られることが出世のパスポートとなる。彼はそうした意味でも上司運に恵まれた人物だ。加えてそもそも上海市のトップは、次代の最高指導部入りの可能性が濃厚な高官が就任する特別なポストでもある。

諸葛宇傑は、これまで一貫して上海で働いてきたが、2023年3月に湖北省に転出した。人事異動を伝えた当時の報道の扱いは比較的大きかったため、必ずしも左遷ではなく、有力者が彼の今後の出世を見込んで他地域での勤務を経験させようとした結果かもしれない。

一方、中国共産党は幹部の個人情報をあまり明かさないため、諸葛宇傑の両親や一族についての事情は公開されていない。ゆえに、彼が三国志の軍師・諸葛亮と血縁関係を持つ人物であるかも、現時点では不明である。

諸葛亮の子孫を称する人たち

とはいえ諸葛宇傑が、諸葛亮やそれに近い人物の子孫(という言い伝えを持つ一族の出身者)であっても、それほど不自然ではない。

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