最新記事
映画

「感傷的なクズ」と酷評... バンス自伝映画が暴露した「トランプ陣営に不都合」な副大統領候補の「本性」とは?

Is “Hillbilly Elegy” a Liability?

2024年8月29日(木)14時17分
サム・アダムズ(スレート誌映画担当)
『ヒルビリー・エレジー』の場面写真:オーウェン・アスタロス演じる少年時代のJ・D・バンスとグレン・クローズ演じる祖母

すさんだ環境で育つバンス少年(右)は祖母(中央)に助けられながら貧困を脱しようともがく LACEY TERRELL/NETFLIX

<米共和党の副大統領候補J・D・バンスの半生を描く『ヒルビリー・エレジー』はいい宣伝になるはずが、むしろ大統領選には「逆効果」になりそうだ──>

7月の米共和党全国大会でJ・D・バンス上院議員(40)がドナルド・トランプの副大統領候補に指名されてからというもの、アメリカの有権者は彼に興味津々だ。だが、国民の注目がバンスに有利に働いたとは言えない。

バンスはトランプが2度とも大統領選を制したオハイオ州から2022年の中間選挙で上院選に出馬し、当選。無敵のサクセスストーリーに後押しされて、右派のホープの地位を確立した。


ケンタッキー州の労働者の家系に生まれたバンスは、オハイオ州の小さな町でシングルマザーに育てられた。高校を卒業して海兵隊に入隊し、除隊後はオハイオ州立大学からエール大学法科大学院に進学。大手法律事務所勤務を経てベンチャー投資家として富を築いた。

少なくとも遠目には、根性と意志さえあれば誰でも成功できるというアメリカンドリームの体現者だ。

だがよく見ると、バンスの印象はさほどよくない。党大会の波に乗って絶好調と思いきや、その好感度は現職ではない歴代副大統領候補の中では1980年以降で最も低い。

連邦レベルの人工妊娠中絶の禁止を支持する強硬姿勢や「子なしの猫好き女性」を揶揄した過去の失言があだとなり、支持はさらに落ちている。

「子なしの猫好き女性」を揶揄するJ・D・バンス


一方、その名を全米に知らしめた16年の自伝『ヒルビリー・エレジー アメリカの繁栄から取り残された白人たち』(邦訳・光文社)はベストセラー1位に返り咲いた。自身が製作総指揮を務めた20年の映画『ヒルビリー・エレジー -郷愁の哀歌-』も、ネットフリックスでトップ10に入った。

自分の人生を望む形で有権者にアピールできるのだから、願ってもない話だ。だが自伝がトランプに勝利をもたらした白人労働者層の政治不信を理解するカギと評価された16年以後、風向きは変わった。

映画はトランプが再選に失敗した20年の大統領選直後に公開され、貧困ポルノとたたかれた。評論家のジャスティン・チャンはロサンゼルス・タイムズ紙で「見苦しいほど感傷的なクズ」と一蹴した。

学生時代の友人によれば、映画の酷評が「決定打」となり、バンスはかつて食事のマナーを知らない自分を笑ったリベラルなエリート層になじむ努力をやめたのだという。

ロン・ハワード監督の映画はJ・D少年(オーウェン・アスタロス)が自転車で川に泳ぎに行く場面で、のどかに幕を開ける。フィドルの音楽が流れ、ケンタッキーで過ごした夏は「子供時代の最高の思い出」だとバンスの語りが入る。

だが川に飛び込むとすぐに、地元の少年たちが彼を押さえ付けて水に沈める。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

NZ中銀が0.25%利下げ、景気認識改善 緩和終了

ワールド

アングル:ケネディ暗殺文書「押収」の舞台裏、国家情

ワールド

ウクライナ和平で前進、合意に期限はないとトランプ氏

ビジネス

ステランティス会長、欧州自動車産業の「衰退リスク」
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    放置されていた、恐竜の「ゲロ」の化石...そこに眠っ…
  • 8
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 10
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 8
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中