最新記事
米連邦裁

「バランスを失った」米連邦最高裁が下級審の判事たちにこき下ろされる

Dissenting Opinions

2024年8月2日(金)19時27分
キャサリン・ファン(国際政治担当)

newsweekjp_20240802112528.jpg

ロー対ウェード判決が破棄された数日後にアリート最高裁判事の自宅前で抗議する人々(22年) TASOS KATOPODIS/GETTY IMAGES

「連邦裁判所には厳しい倫理規定があるが、最高裁には適用されない。それでも判事なら、倫理的な行動を日頃から心がけているのが普通だ」と、ムーカウシャーは語る。

「最高裁判事の行動のせいで全ての判事が非倫理的であるように見られるのは、(一般の判事にとって)つらい」

元判事のテートルは、倫理問題が最高裁の信頼が傷ついた一因だとしつつ、ほかにも複雑な要因があることを認める。最高裁にも管理できる問題と、できない問題があるという。

まず現在の最高裁の混乱は、議会が「総じて機能不全」に陥っていることが最大の原因だとテートルは言う。本来、議会が対処すべき問題に対処しないために、その問題が裁判所に持ち込まれているというのだ。


だが最高裁には、どの上告を受理するか選ぶ権限がある。「だから(現在の状況に陥った)責任は、ある程度最高裁にもある」と、テートルは言う。

「議会に処理させたり、もっと国民の間で議論させるべき問題に、自ら踏み込んでいる」

「最高裁が政治的な機関に見えるようになれば、国民がその仕事に不満を抱くことは避けられない」ともテートルは指摘する。

「国民は最高裁を正当な裁判所としてではなく、むしろ選挙で選ばれたのではない政治機関としてみている」

レッドフィールド&ウィルトンが本誌のために行った世論調査では、有権者の10人に4人が今年の大統領選で投票行動を決める際に、最高裁は「極めて重要」になるだろうと答えている。

10人に3人が「中程度に重要」、10人に約2人が「やや重要」と答え、最高裁は全く関係がないという有権者はわずか5%だった。

今年の大統領選の候補者たちは、有権者が11月に投票する際に、最高裁が重要な関心事になることを承知している。

バイデンは6月中旬の資金調達パーティーで、大統領選の勝者は最高裁の2つの空席を埋めるチャンスを手にすることになり、トランプが「星条旗を逆さまに掲げる判事をさらに2人任命」すれば、彼の2期目の「最も恐ろしい場面の1つ」になると警鐘を鳴らした。

「身内からの批判」の意義

昨年引退したムーカウシャーは、自分がまだ判事席に座っていたら「こうして話している全てのことが規律違反になる」から、取材には応じなかっただろうと語る。

「ただし、さまざまな状況における(最高裁判事の)振る舞いが下級裁判所の判事を困らせていることは、確かに懸念されている」

エイハーンは、最高裁は最高位の裁判所というだけでなく連邦司法の頂点であり、判事が最高裁について発言することは「リスクがある」と認める。

「願わくば、最高裁の判事たちがこのような事態に自分がどう対応するかを考える際に、その点を考慮してほしい」

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

新型ミサイルのウクライナ攻撃、西側への警告とロシア

ワールド

独新財務相、財政規律改革は「緩やかで的絞ったものに

ワールド

米共和党の州知事、州投資機関に中国資産の早期売却命

ビジネス

米、ロシアのガスプロムバンクに新たな制裁 サハリン
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 6
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 9
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 10
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 9
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中