「劇場型政治家」小池百合子の限界...頼れる誰かに擦り寄る力と「丸のみ」にした3つの政策

OPPORTUNIST SUPREME

2024年7月5日(金)17時18分
広野真嗣(ノンフィクション作家)

newsweekjp_20240704050256.jpg

権力維持のためには臨機応変に姿を変える(写真は6月20日、出発式で支援者と) SOICHIRO KORIYAMA FOR NEWSWEEK JAPAN

知事選後、都議会自民党の都議は「是々非々の姿勢は変わらない」と発言していたが、小池に「軍鶏のけんか」を仕掛けなくなった。小池は議会に安定を想定し得る、「普通の都知事の権力」を獲得したのだ。

それによって何が起きたか。第3の政策として東京メトロ有楽町線・南北線の延伸プロジェクトの例に触れておこう。

マンション開発が進む臨海部の豊洲と、東京スカイツリーにも近い住吉を結ぶこの延伸計画を今年5月、都の都市計画審議会が承認した。建設費は1420億円。開業すれば副都心線の08年以来という久しぶりの大型地下鉄建設だ。


この延伸は元江東区長、山﨑孝明(23年4月に急死)の悲願だった。山﨑は、自民党の区議や都議を経て区長を4期務め、23区長会長に上り詰めた実力者。元首相の森喜朗に近く、息子も自民党都連幹部だった。

20年知事選を控えた19年10月、山﨑と面会した小池は「全力で取り組んでいきたい」と熱弁。小池再選後の21年の協議で、都が年来の主張であったメトロと都営の一体化を求めないと明言したことがきっかけで、メトロも都などの補助を前提に消極姿勢から建設容認に転じた。

小池にとっては山﨑の要望に応えたことになるが、大きな方針転換ではあった。

これまで東京都はメトロ株の47%を保有することによって、潤沢なキャッシュフローを誇るメトロに影響力を及ぼし、路線の整備や地上出口エレベータなど環境整備を促すことができた。

そこに公益性を見いだしていたからこそ株保有や一元化にこだわったはずだが、結局、53%の株を保有する筆頭株主の国の求めに応じて、都の保有株も放出することを決めた。

儲かり体質のメトロ株を手放し、将来的な都市基盤のための投資余力を失うデメリットが生じるが、前出の政策同様、小池が将来のことまで考えていたかどうか。

さらに問題がある。前出の都の審議会では、有楽町線だけでなく南北線延伸(白金高輪~品川)も承認している。これも整備主体はメトロだが、やはり都の財政出動が条件になる。

メトロだけではない。都直営の都営大江戸線の延伸計画(光が丘~大泉学園町)について小池は昨年の都議会で、庁内に検討組織を立ち上げると答弁した。

都が出資する第3セクターが運営主体となる臨海地下鉄(東京駅~臨海部)も事業計画を作成中のほか、やはり都出資の多摩都市モノレールの延伸(上北台~箱根ヶ崎など)も、都知事選の公約にも盛り込んだ。多摩は、最近、接点が際立つ自民党都連会長の萩生田のお膝元だ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエル、新たに遺体受け取り ラファ検問所近く開

ビジネス

米11月ISM非製造業指数、52.6とほぼ横ばい 

ビジネス

マイクロソフトがAI製品の成長目標引き下げとの報道

ワールド

「トランプ口座」は株主経済の始まり、民間拠出拡大に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 2
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与し、名誉ある「キーパー」に任命された日本人
  • 3
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 6
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 7
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 8
    トランプ王国テネシーに異変!? 下院補選で共和党が…
  • 9
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が…
  • 10
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中