最新記事
EV

遅れを取ったアメリカがEV革命の先頭に立つには?

BEYOND TARIFFS

2024年7月2日(火)15時10分
リジー・リー(アジア・ソサエティー政策研究所フェロー)
バイデン大統領の中国製EVの輸入規制は、アメリカのEVメーカーを育成する狙いがある EMILY ELCONINーBLOOMBERG/GETTY IMAGES

バイデン大統領の中国製EVの輸入規制は、アメリカのEVメーカーを育成する狙いがある EMILY ELCONINーBLOOMBERG/GETTY IMAGES

<大衆向けEVでは出遅れた感があるアメリカが、EV革命の先頭に立つために必要なこと>

ジョー・バイデン米大統領は、8月から中国製の電気自動車(EV)に最大100%の制裁関税を課すことを決めた。

とはいえ、既存の関税や厳しい規制障壁のために、アメリカのEV市場における中国車のシェアは既に2%以下。しかも、多くの中国企業はこうした関税措置を回避するために東南アジアに製造拠点を移しており、制裁としての効果は極めて限定的となりそうだ。


バイデン政権の真の狙いは2つ。安価な中国製EVの流入をストップして、アメリカのEV産業を育てること。そして11月の米大統領選に向けて、「中国に対する毅然とした姿勢」を有権者にアピールすることだ。

だが、アメリカのEV産業を育成し、イノベーションを促し、低価格化を実現するには、中国車の流入を一時的にストップするだけでは不十分。本気で中国と競争するつもりなら、重要産業を長期にわたって育てる方法を中国から学ぶべきだ。そうすれば、アメリカはその技術力と資金力を駆使して、中国をしのぐ成功を収めることができるだろう。

一貫性のある産業政策を

中国製EVは人為的に価格を抑えられていると思われがちだが、実のところ、保護貿易と政府による巨額の研究開発投資、そして国内サプライチェーンの確立を組み合わせた産業戦略により、純粋に低価格化が可能になっている。地方政府や企業間での競争を促す政策や、STEM(理系)教育に力を入れてきたこともプラスに働いた。

つまりEV業界における中国の成功は、アメリカがここ数十年ほとんど無視してきた「一貫性のある産業政策」によるところが大きい。

なかでも中国政府は、需要サイドと供給サイドの両方に莫大な補助金を交付して、消費者にはEV購入を経済的に魅力な選択肢にし、メーカーにはEVの生産拡大を魅力的な選択肢にした。また、さまざまな規制により国内メーカーを外国製EVとの競争から守ってきた。こうした包括的な施策が、EV分野における中国の急速な台頭を可能にしたのだ。

だが、ひょっとするともっと重要なのは、中国政府が国内メーカー間の競争を喚起してきたことかもしれない。中国のEVメーカーは、もっとイノベーションを起こして、もっと性能の高いEVを作るようインセンティブを与えられており、それが要素技術の急速な進歩と大幅なコスト削減をもたらしてきたのだ。

さらに政府は、EV製造のエコシステム確立にも力を入れ、中国国内でサプライチェーンを構築する戦略を取ってきた。その結果、バッテリーや電子機器など重要部品が中国国内で生産されるようになり、外国サプライヤーへの依存度が低下して、コスト削減が可能になった。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

カナダ、中国との首脳会談に期待 来週のAPEC会議

ワールド

習主席、「中国は戦略的イニシアチブを」=新華社

ワールド

アングル:米中首脳会談は幅広い合意困難か、双方に融

ワールド

インタビュー:高市外交、隣国との関係構築が関門 ト
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 2
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシアに続くのは意外な「あの国」!?
  • 3
    「ママ、ママ...」泣き叫ぶ子供たち、ウクライナの幼稚園をロシアが攻撃 「惨劇の様子」を捉えた映像が話題に
  • 4
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 5
    ハーバードで白熱する楽天の社内公用語英語化をめぐ…
  • 6
    国立大卒業生の外資への就職、その背景にある日本の…
  • 7
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月2…
  • 8
    汚物をまき散らすトランプに『トップガン』のミュー…
  • 9
    「石炭の時代は終わった」南アジア4カ国で進む、知ら…
  • 10
    【ムカつく、落ち込む】感情に振り回されず、気楽に…
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 5
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 6
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 9
    「ママ、ママ...」泣き叫ぶ子供たち、ウクライナの幼…
  • 10
    ハーバードで白熱する楽天の社内公用語英語化をめぐ…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中