最新記事
EV

遅れを取ったアメリカがEV革命の先頭に立つには?

BEYOND TARIFFS

2024年7月2日(火)15時10分
リジー・リー(アジア・ソサエティー政策研究所フェロー)

だが、中国のやり方にはマイナス面もある。激しい値下げ競争のために利益は薄くなり、どのメーカーも経営は苦しい。また、国内消費の冷え込みと、それに伴う中国産EVの輸出急増は、輸出先との貿易摩擦や、政治の不安定を引き起こしている。明確な期限のない手厚い補助金は、市場の作用をゆがめて非効率を生み出し、メーカーを持続不可能なレベルまで補助金依存に陥らせている。

政府支援をインセンティブに

アメリカが中国の成功に倣いつつ、こうしたマイナス面を回避するためには、関税措置だけでなく包括的なEV業界育成戦略を構築する必要がある。バッテリー技術や電動パワートレイン、軽量材料といった重要技術の研究開発に、政府が積極的に投資することもその1つだ。これらの重要技術でイノベーションを促せば、国際的な技術優位を築けるだろう。


その一方で、アメリカの補助金制度は慎重に調整し、段階的に廃止して、市場のゆがみや政府の支援への過剰依存を防ぐべきだ。インセンティブを賢く与えれば、長期的には自立した市場を構築できるだろう。

もちろん当初は、メーカーと消費者の両方に金銭的インセンティブを与えることが不可欠だ。EV技術に投資する企業への税控除や補助金を拡大すれば、国内生産を刺激できる。また、消費者向けのインセンティブ(EVを購入した場合の税還付など)により需要を喚起すれば、力強い国内市場を生み出せる。

需要と供給の両方を推進すれば、市場に持続可能なエコシステムが生まれるだろう。そして市場が成熟するに従いインセンティブを縮小すれば、中国のEV業界が陥ったような非効率は回避できるはずだ。

インフラ整備も極めて重要だ。EVの普及を阻む大きな壁の1つは、電池切れへの不安だから、全米で充電ステーションの設置を進めるべきだ。このとき関連技術の規格を統一して、どのメーカーのEVでも充電できるようにすれば、さらなる普及と業界の成長を促せるだろう。

これと並行して、自動車業界に特徴的な新規参入障壁も縮小するべきだ。時代遅れのディーラーシステムを改革すれば、競争に弾みがつく。また、外国メーカーとの合弁を奨励すれば、技術移転とイノベーションを加速できる。さらに、移民制度を改革して、外国からのSTEM人材をもっと活用できるようになれば、EVのみならず幅広い技術環境を強化できるだろう。

グリーンボンド(気候変動対策のために企業や地方自治体が発行する債券)や官民パートナーシップといった資金調達メカニズムの充実も、大規模なインフラ整備や研究開発に十分な資金を供給する役に立つ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

午後3時のドルは149円後半へ小幅高、米相互関税警

ワールド

米プリンストン大への政府助成金停止、反ユダヤ主義調

ワールド

イスラエルがガザ軍事作戦を大幅に拡大、広範囲制圧へ

ワールド

中国軍、東シナ海で実弾射撃訓練 台湾周辺の演習エス
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 10
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中