最新記事
北朝鮮

「核ドミノ」は避けたい...金正恩とプーチンの接近が習近平にとって「頭痛の種」な理由

Uneasy Allies

2024年6月25日(火)13時44分
ペク・ウヨル(延世大学准教授)

つまり、中国の安全保障上の従属的パートナーが核兵器開発を進める結果、アメリカは同盟国と総力を挙げて「統合抑止力」を強化し、中国はその脅威に直面することになる。

北朝鮮の核開発という実存的な脅威に対し、アメリカは朝鮮半島とその周辺で戦略的資産の配備をさらに強化しており、既に悪化しつつある台湾海峡情勢にも影響が及ぶだろう。


中国がロシアと同じように、北朝鮮の核兵器を交渉の切り札として使おうとすれば、中国が最も恐れる「東アジア版NATO」が現実味を帯びてくるかもしれない。

米英豪の集団的安全保障の枠組みAUKUS(オーカス)の第2の柱である先端技術分野の協力に、日本と韓国が参加を検討していることは、中国の安全保障環境がいかに悪化しているかを物語る。

もちろん、こうした核の駒の戦略的運用は、別の悪夢のシナリオが現実になる確率を高めるだろう。すなわち、韓国、日本、台湾、ベトナムなど世界中で、周辺国の核武装が連鎖反応を招く核ドミノが起こる恐れがある。

中国にとって第3の脅威は、交渉の切り札として北朝鮮の核能力を利用すれば、西側諸国から今以上に疎外されかねないことだ。

中国は、西洋帝国主義に対する否定的なレトリックや、グローバルサウスを主導しようとする最近の試みにもかかわらず、経済、技術、安全保障の継続的発展のために、当面は西洋諸国を必要としている。

中国が北朝鮮の軍事力増強と核拡散を公然と支援すれば、さらに多くのヨーロッパや東アジアの先進国が中国と距離を置き、監視の目が厳しくなるだろう。

ここにきて中国とロシアは初めて、北朝鮮の核武装ゲームをめぐってずれが生じている。ロシアは、北朝鮮が核兵器を備蓄することに(極めてリスクは高いが)プラス面もあると考えている。一方で中国は、このように不安定さを誘発する安全保障環境からダメージを受けているはずだ。

日米韓の安全保障分野の協調に対抗して、北朝鮮、ロシア、中国の3国間にも協調の兆しが見られる。ただし、中国はロシアの最大の軍事同盟国になるという不名誉を敬遠して、3国間のリーダーシップを取ることには消極的なようだ。

中国が東アジアで正式な安全保障同盟を形成するという戦略的意欲は、過大評価されているだろう。

一連の核ゲームで、誰が影響力を持っているのか。中国か、ロシアか、北朝鮮か、アメリカか。少なくとも今のところ、中国が勝ちつつあるようには見えない。

ただし、中国は、北朝鮮の核兵器を台湾の軍事占領に役立つとみている可能性がある。この点は今後数年間、注視しなければならない。

From thediplomat.com

ニューズウィーク日本版 ガザの叫びを聞け
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月2日号(11月26日発売)は「ガザの叫びを聞け」特集。「天井なき監獄」を生きる若者たちがつづった10年の記録[PLUS]強硬中国のトリセツ

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米ウ代表団、今週会合 和平の枠組み取りまとめ=ゼレ

ビジネス

ECB、利下げ巡る議論は時期尚早=ラトビア中銀総裁

ワールド

香港大規模火災の死者83人に、鎮火は28日夜の見通

ワールド

プーチン氏、和平案「合意の基礎に」 ウ軍撤退なけれ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果のある「食べ物」はどれ?
  • 4
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 5
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 6
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 9
    ウクライナ降伏にも等しい「28項目の和平案」の裏に…
  • 10
    ミッキーマウスの著作権は切れている...それでも企業…
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 3
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 4
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 5
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 6
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 9
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 10
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中